チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年9月13日

イヴ・ドゥテイユの歌『チベットの女性(La Tibetaine)』 囚われのチベットの尼僧を救うために

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255x255-75ウーセルさんは昨日のブログでフランスのシャンソン歌手イヴ・ドゥテイユ(Yves Duteil )の『チベットの女性(La Tibetaine)』という歌を紹介された。1997年に発表されたこの歌は当時獄中にあった尼僧ガワン・サンドルの解放を求めるためにイヴ・ドゥテイユが作詞、作曲したものである。

私も嘗て(おそらくツイッターで)この歌の一部を訳し紹介したことがあった。感動的で泣ける歌、素晴らしい歌と思う。

尼僧ガワン・サンドルは、1990年、12歳の時、ラサで行われた抗議デモに参加し、投獄されチベットで最年少の政治犯となった。9ヶ月後に解放されたが、1992年のデモに再び参加し、逮捕、3年の刑を受けた。収監されていたダプシ刑務所内で、彼女は他13人の尼僧と共に密かに持ち込まれたテープレコーダーに獄中生活をテーマにした歌を歌った。これらの歌は外に持ち出され、チベット人や世界の人々から多大な反響を得た。

しかし、このことが発覚し、14人全員が5年から9年の刑期延長を言い渡された。ガワン・サンドルは6年の延刑を受けた。その後刑務所内で「チベットに自由を」と叫んだとして8年延長。1998年、刑務所内で行われた中国国旗掲揚の式典に出席することを拒んだとしてさらに6年延長。合計23年の刑期。しかし、彼女の身体は度重なる激しい拷問が故に衰弱しきっていた。

この当たりの詳しい経緯はこの14人の内の1人であり、当時ダラムサラに住んでいたリンジン・チュキに私がインタビューした記録をブログに載せている。また、歌の一部も過去ブログの中で紹介している。フランス人フィリップ・ブンサールとダニエル・ランが書いたガワン・サンドルの伝記は今枝由郎氏の訳で日本語になり「囚われのチベットの少女」と題され2002年に出版されている。

彼女の存在は有名となり、欧米を中心に彼女の解放運動が盛り上がった。フランスでは数百人の芸術家、政治家、スポーツ選手、知識人が彼女の解放を求める運動を行った。元々社会派である歌手イヴ・ドゥテイユもこの運動に積極的に参加し、この歌を作ったのだ。

これらの解放運動が実り、ガワン・サンドルは2002年に解放された。その後、アメリカに亡命し、チベット人政治犯の釈放等を訴える活動を活発に続けている。

ウーセルさんはブログにイヴ・ドゥテイユの歌の中国語訳と英訳を載せられていた。それではと私が試みに日本語訳を作ってみた。一応フランス語から訳したつもりである。

『チベットの女性』 イヴ・ドゥテイユ アルバム『 touche(トゥシェ: touch /接触)』より

「チベットと世界で苦しむ人々のために」

私たちは同じ太陽の下に暮らす
人はだれでも同じく
希望と苦しみの狭間で
存在を分ち合う

一人のチベット人女性が清らかな心と共に
壁の陰で歌を歌った
三十歳の誕生日を前に
再び太陽が昇ることを夢見ながら

世界の屋根に忘れ去られ
絶え間なく私たちに呼びかける
彼女たちの歌は静まり止んだ
蒙昧なる怒鳴り声により

それは破壊された国家の声
殉教した僧侶たちの
一瞥にして
何千もの命を思い出させる

それは昨日のこと、それはどこか他の場所の話し
私たちは「この惨事を二度と繰り返さぬ」という
これは近くの話し、今のできごと
そして、私はこれらすべての人々のために泣く

私たちは心に彼らの傷を保ち続ける
殺された人たちの悲嘆
武力または暴力により
希望までもすべて失った人々の

もしもこの民族が消え去るなら
最後のチベット人とともに
永遠に
多くの門が永遠に閉ざされることであろう

世界の屋根に忘れ去られ
絶え間なく私たちに呼びかける
しかし、彼女たちの歌は沈黙の内に忘れ去られる
無関心という砂漠の中で

それは力尽きた人々の声
麻痺させられた女性たちの声
彼女たちの心が目撃したすべてを
一瞬にして思い出す

それは昨日のこと、それはどこか他の場所の話し
私たちは「それは間違いだった」という
これは近くの話し、今のできごと
そして、私はその子供たちのために夢みる

地球の一つの自由の国から
何千光年の間
これら野蛮な制服から
恐怖と絶望から(自由になり)

再び太陽の下で暮らすために
同じような一つの歴史
そして、未完の章を
語ることができるために

魂の中にある
真実の炎は
完全に消し去ることはできないと言われる
そして、彼女は密かに私たちを照らしだす

傷口の上の蜜のように
私は今もこのチベットの女性が
捕らえられた姉妹たちとともに歌う
清らかな声を聞く

壁の上のどこかに
私は常に、このチベットの女性が
自由への希望を歌う
清らかな声を聞く

(連帯)

今も、中国では約1000人のチベット人政治犯が獄に繋がれ、悲惨な日々を強いられている。最近、焼身抗議に関連したとして2人に死刑が言い渡された。彼らの多くは単に街中でチベットの自由を叫んだり、チラシを撒いたり、政治教育に異を唱えたりした者たちだ。最近は焼身抗議に関連した焼身者の家族、友人たちの逮捕が続いている。

以下はガワン・サンドルが2009年にチベットの自由を訴え死刑を受けたロプサン・ギャンツェンとロヤンの解放を世界に訴えたビデオである。残念ながら、彼ら2人はこの後、死刑執行されている。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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