チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年9月11日
ナクチュ:2児の母が抗議の自殺を計る
チベット自治区ナクチュ地区にあるシャク・ロンポ僧院に対する中国当局の弾圧についてはすでに8月3日(ナクチュの由緒ある僧院が当局の弾圧の結果 閉鎖に追い込まれる)と8月31日(ナクチュ地区シャク・ロンポ僧院続報 党のテレビショー)に報告している。
この由緒ある僧院は予てより政治的に問題がある僧院として当局に目をつけられていたが、特に2010年に、この僧院の総括ラマである8世ロンポ・チュゼの死に伴い、その転生者を探すための責任者となっていた高齢のラマ・ダワが当局により逮捕され、7年の刑を受けたことにより緊張が高まった。
当局はこのラマ・ダワが転生者選びのために14世ダライ・ラマと密かに連絡を取ったと見なし、ラマ・ダワ以外にも転生者選びに関わったという高僧を逮捕し、刑をあたえた。また、僧院に部隊を派遣し、長期の政治教育を課した。暴力を伴った厳しいこの政治教育に反発し、僧院の僧侶たちは2度に渡り僧院から逃げ出し、僧院は2010年5月と2013年7月末に閉鎖されている。また、この政治教育を苦にし高齢の僧侶が1人自殺している。
この僧院の惨状を見かね、地元のチベット人たちは何度も政府に対し、ラマ・ダワの解放等を要求したが、政府はこれを完全に無視し続け、さらに部隊を増強し、僧院と周辺の村への監視を強化し、政府高官を送り込んだりした。
今年7月半ばには村人と部隊が衝突し、多くの負傷者が出るという事件が発生した。この時50人ほどのチベット人が拘束されたが、その内9人の名前が最近やっと判明した。中には拘留中の暴力により病院に運び込まれた人もいるという。
さらに、中国政府は8世ロンポ・チュゼの転生者として、僧院の意向を無視し、勝手に新しい9世ロンポ・チュゼを認定した。
最近、この衝突で拘束された夫であるロプサン・ツェリンの解放と当局が決めた偽転生者の認定撤回を要求し、2児の母であるドルマ・ヤンキ(28)が抗議の自殺を計った。彼女はバイクに乗り、異常なスピードで運転した末に故意に転倒し自殺を計ったという。警官が彼女を病院に運び込んだが、病院には警官が待機し、訪問者を中に入れず、彼女の容態は不明のままという。
残された2人の子供は祖父母たちが預かると言ったにも関わらず、当局が強制的に孤児院に送ったと伝えられる。
参照:9月10日付けTCHRDリリース
9月9日付けTibet Times
9月9日付けRFAチベット語版
9月10日付けphayul
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)