チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年9月10日
チベット人観光ガイド2人に無期懲役
ラサで長年ガイドの仕事をし、最近インドに亡命した匿名希望のチベット人女性がRFAとVOTに伝えたところによれば、チベット人観光ガイド2人が政治的罪状により無期懲役を受けたという。
2010年の夏、チョモランマ観光に来たアメリカ人がベースキャンプ近くの丘の上でチベット国旗を掲げたことが当局に知れた。その後、このグループをガイドしたシガツェ地区ナムリン県エマガ郷出身のツェリン・サムドゥップ(ཚེ་རིང་བསམ་འགྲུབ།20歳前後)は無期懲役を受け、現在ダプシ刑務所に収監されているという。
また、時期不明、名前不明であるが、ポタラ宮殿をガイドしていたチベット人が、歴代ダライ・ラマの歴史を紹介した時、ダライ・ラマ14世の説明を政府が決めた通りに行わなかったとして無期懲役を受けたという。
「ガイドが観光客に行う説明はすべて政府が決めた通りに行わねばならず、これに違反したことが分かった時には、政治的罪を着せられ処罰される。家族も罰せられこともある」という。
「自分は歴史についてそれほど詳しくないが、よく知っているチベット人に言わせれば、中国が押し付ける説明は嘘ばかりだという」とも話している。
「最近チベット人が観光ガイドになることは非常に難しく、出身地の村、郷、県の承認が必要であり、その上、以前なら小学校卒業の証明書と通訳の証明書さえあればよかったが、最近は大学卒業の証明書が必要だ。それがあってもコネがない場合チベット人がこの職につくことは難しくなっている」という。
また、「周辺地区へ観光客を連れて行く時にはガイドについても特別の許可がいる」という。「今まで長年ガイドをやってきた者でも、更新時に厳しい審査が行われ、中国人は簡単に許可を得ることができるが、チベット人の場合には余程の金を積まねば更新できず、これがためにガイドの職を止めざるを得なくなるチベット人も多い」という。
以前より、チベット人ガイドが中国が隠す歴史的事実や政治的現状を外人観光客たちに話すことを当局は非常に警戒していた。嘗て亡命し、英語を学んだチベット人たちが大勢この職を得ていたが、ある時期、彼らは一斉に解雇された。このように、チベット人がガイドになることは難しくなる一方、漢人がガイドになることは増々簡単になっていると言われる。
今回明らかになったこのチベット人ガイドに対する無期懲役という刑罰は、不当で異常に厳しいものと言えよう。チョモランマのケースは外人観光客を監視し、違法な行為を阻止しなかったという罰であり、ポタラのケースは政府が決めた(嘘の)説明を守らなかったという罰である。もちろんこれはチベット人ガイドへの見せしめであるが、同時にガイドたちに接する旅行者への警告でもあるように思われる。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)