チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年6月27日

拷問に反対し、拷問被害者を支援する日

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DSC_3506一番大きな文字で書かれているのが日本語だが、「世界ことなく拷問」とは!?

昨日6月26日は、1987年6月26日に国連「拷問禁止条約」が発効された日を記念した「拷問に反対し、拷問被害者を支援する日」であった。この21世紀に入っても、世界各地で拷問が行われている。特に中国は反体制者に対し拷問が日常的に行われる政治的拷問大国として知れ渡っている。中国もこの条約に加盟しているが、委員会による度重なる批難決議を完全に無視し続けており、改善の兆しはまったく見られない。

中国全体で拷問は当局の尋問方法として当たり前に正当化されている。また、他の反体制派に対する脅し効果を狙うという側面もある。まさに恐怖政治の基本手段となっている。

拷問はチベットやウイグル、モンゴルの植民地化された異民族に対して特に厳しく、残酷に行われる。これは、これらの地域に対し、中国が適切な統治政策を打ち出す事ができず、単に恐怖により治めることしかできないということを示している。しかし、このような強硬姿勢は根本的問題を何も解決せず、さらなる反発と敵対心を生むばかりである。

ダラムサラではこの日に合わせ、2つのセミナーが行われた。朝11時からTCHRD(チベット人権民主センター)によるセミナー、午後4時半から9-10-3の会(グチュスン、チベット良心の囚人の会)と亡命政府保健省合同のセミナーが行われた。

DSC_3492TCHRDのセミナーにおいては、最初、所長のツェリン・ツォモにより、アムド、ンガバの僧侶が著したチベット内の拷問の実体を暴く新刊書が紹介された。筆名マルジャン・ニュクという僧侶は元政治犯であり、彼の母親も政治犯であったという。ンガバを中心とした中国当局のチベット人弾圧を様々な面から告発するこの著書は内地では出版できず、このほど原稿を手に入れたTCHRDが独自に出版したというものである。ツェリン・ツォモは「中国政府の残忍さも、チベット人の人権を守ろうとする決心を弱めることに成功していない」と指摘する。

同じくTCHRDで働く元政治犯のダワ・ツェリンが自身の獄中体験について話した。彼は80年代終わりにラサで抗議デモに参加し、4年の刑を受けダプシ刑務所に服役していた。審問時やその後服役中に受けた様々な拷問について報告した。撲打に使われる道具も様々でライフルの胴尻や電気棒、木の棒、鉄棒、チェーン、砂入りの長い棒等があるという。電気棒による拷問は誰に対しても常に使われるという。また、縄を使った拷問にも様々あり、縛り方次第で、長時間放置されると、その後関節や筋肉が長期間使い物にならない状態になるという。天上から吊り下げられることもよくあり、これには後ろ手に縛られ吊られたり、逆さに吊られるというものもあるという。その他、彼は裸にされ氷の上に長時間放置されるという拷問にもあったという。

DSC_3507様々な電気棒。

拷問が始まると、それは午前、午後と繰り返され、それが何日も続く。その内やられるものは自殺したくなる。拷問する相手に懇願したりすると、「ダライを呼べばいい」と言われる。肉体的にも精神的にも追いつめられ、本当に自殺したり、拷問の結果死んだものもいるという。彼は同じ監獄に入れられていた17歳のラクパ・ツェリンが度重なる拷問の末、病院に運び込まれたが、十分な治療も受けず死亡した時のことを詳しく報告した。

また、政治犯は解放された後にも監視され続け、やっと仕事を見つけても、警察が雇い主を脅し、政治犯は首になることが多く、生活に困窮し亡命せざるを得なくなるという。

彼が経験した拷問は30年も前のことであるが、今も拷問はまったく終わっておらず、様々な報告を総合すると、拷問のやり方ができるだけ外傷を残さない方法に変わっているという。

警察用品を販売するという会社のネットには通称タイガーチェアと呼ばれる尋問用の椅子や、もがけばもがくほどに絞まる手錠、指錠、鋲つき鉄こん棒が商品として上げられている。>>>http://www.cccme.org.cn/shop/cn1211363136/offerinfo-8078529.aspx

DSC_3530もう1つのセミナーでは会場になったニマロプタ・ホールの壇上正面にはこれまでの焼身者119名の顔写真が掲げられ、その前に多くの灯明が灯されていた。その右手には拷問道具の写真と共に、グチュスンのメンバーが実際に縄や鉄の鎖で縛られていた。左手には拷問シーンを描写した絵と共に、同じくメンバーが独房の中で繋がれていた。

DSC_3527セミナーではロユンという69歳の元政治犯が1950年に中国軍がラサに侵攻したときから、現在までのチベットの状況を概観する長い証言を行なった。彼の父親は59年蜂起に参加し、その後収容所で死亡している。彼も収容所に長期間入れられ、数千人の内わずかに生き残った内の1人という。収容所内の過酷な労働、飢餓、虐待の実体を細かく語った。

DSC_35162008年蜂起の後、一時的には5、6千人の政治犯が拘束され、多くが刑務所に送られた。現在、その時期に収監された政治犯たちが徐々に解放されているが、彼らの多くが拷問により、健康を損なったり、障害者となっている。彼らは刑務所内で受けた拷問について口外することを禁止されている。それでも、その内の何人かが亡命前に拷問の実体を暴き、再び逮捕されている。現在、刑務所に入れられているチベット人政治犯の数はTCHRDによればおよそ千人である。ほぼ全員が拷問を受けた、或は今も受け続けていることは間違いないのである。

拷問には2つある。肉体的拷問と精神的拷問である。中国当局の目的は肉体的拷問により精神を破壊し、当局の言いなりになる人格を作る事にある。動物を調教する仕方で人々を統治しようというものだ。中国は古代より長い間この統治方法のみを使って国を統治してきた。21世紀の現在においてもこれが通用すると思っている。これしか、知らないとも言えよう。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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