チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年5月26日

サカダワ

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サカダワダラムサラ・カーラチャクラ堂の正面中央に描かれる仏陀釈迦牟尼。

昨日西暦5月25日はチベット暦においては4月15日であり、チベット仏教徒が一年の内もっとも聖なる月と見なす4月(ས་ག་ཟླ་བ།サカダワ)の中日であり、釈迦牟尼仏陀がこの地上に降誕し、ブッダガヤの金剛座で成道され、クシナガラで涅槃された日と信じられている。チベット仏教的には一年でもっとも大事な日とされる。サカダワの一ヶ月間になんらかの功徳を積めばそれは数十万倍になると言われる。その反対に悪徳の方も同じく数十万倍になるそうだ。で、チベット人はじめチベット仏教に影響された人たちはこの一ヶ月できるだけ善い事をすることを心がける。

サカダワ2ダラムサラ・ツクラカン本堂にこのサカダワの期間だけ、特別に公開されるというキロン・ジョオ像。後ろにあるのはいつも安置されている千手観音であり、その前の見目美しい立像がそれ。いつもはダライ・ラマ法王パレスに置かれているそうである。

ジョオ(チョオ)と呼ばれる像は一般に釈迦牟尼仏陀の菩薩型であり、仏陀のティーンエイジ時代を表現したものとされる。もっとも有名なジョオ像はラサ・ツクラカン(ジョカン)のジョオ像である。よく3大ジョオ像とよばれるが、これはジョカンのジョオとこのキロン・ジョオ、そしてもう1つはラモチェのジョオともラガンのジョオとも言われる。

ところで、この旧暦(太陰暦)の4月に仏陀が生まれ、悟り、亡くなったというのは上座部仏教系のタイ、ビルマ、スリランカその他の国々でも同様に信じられていて、これらの国々でも「古代インド暦でヴァイシャーカ月の満月の日」にウィッサカ・ブッシャー(仏誕節)というお祭りを盛大に祝う。だからこのインド起源の言い伝えが始まったのは相当古いと思われる。

一方この設定は中国で変革されたようで、それが伝わった韓国や日本では仏陀の誕生日は4月8日とされ「花まつり」として祝うしきたりが生まれた。日本では成道会は12月8日、涅槃会は2月15日である。

何れにせよ、いつかから始まった言い伝えでり、本当にいつ仏陀が生まれたか、悟ったか、亡くなったかなどということは正確には分かっていない訳だが、とにかく仏陀を偲び、(普段忘れたりしている)その教えを思い出し、(普段はあまり気にかけていない)善い事をする機会を作ろうというわけである。

サカダワ3ツクラカン、ナムギェル僧院ではこのところ砂マンダラも作られサンワドゥパ(グヒヤサマージャ 秘密集会)の灌頂が行われている。

サカダワの中日に熱心なチベット人が動き出すのは夜中の12時過ぎである。煌々と満月が天空に照り輝く中で、大勢のチベット人がパレスを巡るコルラ道に出て五体投地を始める。もちろん単に歩いて回る人も大勢いるがとにかく朝方まで何度もコルラするのである。そして、朝5時前にはツクラカンの本堂でテクチェン・ソジョンと呼ばれる在家信者のための懺悔の儀式とその日一日だけ守る特別の戒を受ける。

サカダワ4毎年サカダワにはこれと同様の写真を載せている訳だが、ダラムサラ・サカダワ名物はこのコルラを埋め尽くすインド人乞食さまたち。遠くからやって来てサカダワが始まると同時にもう2週間前からここに住み着いている者たちも多い。それほど、この時期の実入りは(きっと)多いのだ。連れがその数を数へたところによれば、コルラ道沿いに約1200人いたそうな。

サカダワ5サカダワと言うといつからそうなったのか知らないが、最初の2週間だけに善行を努めるとか肉を断つとかが一般的となり、後の2週間はもうサカダワから解放?された気になる人が多いようだ。そこで、これを揶揄した「サカダワは最初の2週間に善を積み、後の2週間で悪を積む」を言われたりする。2週間肉を我慢したのだからと言って肉をバカ食いしないように。

サカダワ7もっとも、日本の人たちのツイッターやFBを見ていると、サカダワ=肉断ちと思ってる人が多いように見受けられた。チベットでもこの時期肉を断つという習慣はあるようだが、きっとこれは肉好きのチベット人にとってはこの戒が余程きつくて有名になったからではないかな?なんて思ったりする。

本来は肉を断つなんてことは、対した善行にもならないわけで、それよりももっと気をつけるべきことは沢山あるのは当たり前である。在家の戒律には5戒、10戒、菩薩戒等があるが、5戒の中には酒を断つというのもあるはず。10戒の中の「殺さない」はもちろん人を殺す人は稀としても、まずは目につく蚊等の虫を一匹も殺さないとか、「盗まない」は人様の所有物を盗む人は稀だが、人の時間を様々な意味で盗むというのも含まれるということに注意したほうがいい。「浮気をしない」はサカダワだからといって、これを途中で止める訳に行かない人も多いかとも思うが、とにかくお互い一生を台なしにする可能性が非常に高いので気をつけられんことを。

サカダワ9「嘘をつく」と、もちろん大変なことになることが多い。まずはそのような状況に陥らないように日頃から気を付けるように。やるといってやれないときも嘘になるので、できないことは最初から安請け合いしないように。「ほらを吹く」も嘘の一種である。「暴言」は次の「中傷」と共にこのサカダワには特に気を付けたい。とくに最近ではツイッターとかFBの普及により、この機会が増えているように感じる。癖になってるような人は早く気がついて、「人は長所のみ」という仏教の言葉を思い出して欲しい。「おしゃべり」は仏教では「時間を食う」ので、非常に悪い事になっている。

サカダワ11最後の心の不善の3つ貪欲・瞋恚・邪見(愚痴)は仏教で乗り越えるべき全てのことを含む。もっとも、仏教を持ち出さなくても、小欲にして、怒りや愚痴のこころを遠く離れることは幸せの基本であることは誰もが認めるところと思うので、とにかくこのサカダワの時期に執着心を少しでも減じ、決して怒らず、一言も愚痴を言わないことを堅く決心し、できるだけ実行してみてほしいものだと、自分のとこはさておき、老婆心でお願いする。

サカダワ12おまけの1枚。

徳とは幸せの元のことだが、仏教の慈悲を始めとする方便の教えも、空の教えを始めとする智慧の教えも、すべて自他ともに幸せになるための教え。社会や個人の性格がよくなるためのアドバイスである。

修行だ、瞑想だ、仏教を勉強してると口にしながら、性格がちっとも改善されない人はなにか根本的な誤解があるのではないかと気付いた方がいいかもしれない。

とにかく特にサカダワ中には人に優しく接し、自分のことを考えることを少なくし、人助けに努めることだ。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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