チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年3月19日
焼身したソバ・リンポチェの伝記を書いた僧侶作家が行方不明 僧院は弾圧
連行された僧侶作家ティツン
3月8日、自らの僧院であるゴロ州ガデ県トンキャプ僧院内で、去年1月8日に焼身、死亡した地域の高僧ソバ・リンポチェ(彼の遺言http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51729748.html)の伝記の出版記念会を開いた僧ティツン(ཁྲི་བཙུན་26歳、筆名ティプタク)は、僧院が休み中であったことでもあり、僧院近くにある自宅に戻り年老いた母親の面倒を見ていた。身寄りは母親だけであった。3月11日、ガデに用があったので街に向かったが、そこで武装警官隊により彼は連行され、その後行方不明となった。
トンキャプ僧院前に停められている警察車両
15日にはトンキャプ僧院に県の役人がやって来て、僧ティツンの本を出版するために金を出した者を引き渡せと命令した。しかし、僧院側はこれを拒否。すると17日には役人や部隊約100人が僧院に押し掛け、これから一ヶ月間愛国再教育を行うといい、本堂を宿舎として提供するよう命令した。しかし、僧院側はこれを拒否。部隊は僧院内にテントを張り、居座っているという。
僧院は完全に包囲され、役人や部隊の数は日増しに増加している。また、彼らは正式な僧侶認定書を持たない18歳以下の僧侶は僧院から追い出すとも言っている。現在僧院には200人程の僧侶がいるが、その内正規の認定書を持つ者の数は100人程度といわれ、半数近くが追放される恐れがあるという。
トンキャプ僧院の小坊主たち。彼らは今回追放されるかも知れない。
僧ティツンは普段地区の私設学校で教師もしていた。彼の書いた<བདེན་པའི་ཁ་རླངས(真理の呼吸)>という本の中にはこのトンキャプ僧院のラマでもあったトゥルク・ソバ・リンポチェの伝記と共に、これまでチベットのために焼身した人々の話も書かれていたという。
拘束者も出ているという話もあるが、詳細は伝わっていない。
参照:TCHRDリリースhttp://www.tchrd.org/tib/2013/03/གྲྭ་ཁྲི་བཙན་ལགས་འཇུ་བཟ/
他、VOTチベット語放送等。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)