チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年3月14日

ウーセル・ブログ:「中国の夢」にチベット人の夢はあるか?

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556899_4565745941570_342371124_n2008年3月14日のラサ。

今日、3月14日は2008年ラサでチベット人による大規模な蜂起行動が起こされ、これに対し当局が計画的な武力鎮圧を行った結果、ラサでけでも亡命政府発表によれば200人以上の犠牲者が出た日である。そして、この大規模蜂起は当局により「チベット人の暴動」として広く中国のTVで報道された。これは当局が主に漢人の間にチベット人への反感を高めさせることを意図して放映されたものである。その計画通り漢人はチベット人を「恩知らず」と罵った。また、この映像がチベット人居住区に流されると、チベット人たちはこれを一斉蜂起のサインと見なした。そして、それまでに鬱積していた中国政府への怒りが爆発したかのように各地で政府に対する抗議デモが発生した。その数はその後数ヶ月の間に150件近くに昇った。これに対し当局が強硬な武力鎮圧を繰り返したことにより、大勢のチベット人が犠牲となり、数千人が獄に送られた。これ以降、チベット人の政府への不信感、漢人対チベット人の対立は一層鮮明となり、今に続く焼身抗議の伏線となったのだ。

また、今日は中国の新指導者として習近平が正式に就任した日でもある。ウーセルさんは3月7日付けブログで習近平の提唱する「中国の夢」の中に果してチベットの夢は含まれるのか?と問い、「中華民族の偉大な復興」を唱える習近平に安易に期待しても無駄であろうと述べられている。以下、そのブログの全訳。

原文:http://woeser.middle-way.net/2013/03/blog-post_7.html
翻訳:@yuntaitaiさん

◎「中国の夢」にチベット人の夢はあるか?

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中国共産党の新しい指導者、習近平がチベット問題に変化をもたらす。そんな希望を持ち続けるのは適切だろうか?多くの人は強硬な政策が軟化するよう望んでいる。それにとどまらず、取り繕った言い方をすれば、「積極的な変化」があるよう望んでいる。

習近平時代のチベット問題をどう見るかという質問攻めに遭い、私は頭が痛くなった。この質問には多くの場合、ある感情を伴う昔話が注釈として付け加えられていたからだ。昔話の中では、ダライ・ラマ法王は20代前半で、習近平の父、習仲勲は壮年の共産党高官だ。二人の間には当時、友情が生まれたようだ。確かに法王は習仲勲との交友を回想したことがあり、温和で開明的な印象が残っているという。

しかし、習仲勲はかつて毛沢東に「諸葛亮よりも有能」と称賛されている。これもまたチベット人と関わりがある。話せば長くなるが、つまり彼は当時、(現在の青海省尖扎=チェンツァ=県の東部で)抵抗するチベット人の首領ガハンチェンに投降を(17回)勧め、統一戦線に成功した。毛はこのため、(蜀の南征で)孟獲を7回捕えた諸葛亮と比べたわけだ。孟獲は少数民族の頭領ではなかったか?これが史実かどうかについてはさまざまな意見があり、孟獲の結末は知る由もない。一方、ガハンチェンは数年後に共産党の牢獄で死亡している。

習近平の地位と権力に並ぶ者はいないため、人々はチベット統治について予想する際、彼の亡父とダライ・ラマ14世、パンチェン・ラマ10世との親しい交わりを分析する傾向がある。このほか、彼の高齢の母と歌手の彭麗媛夫人がともに仏教徒であること、彭麗媛がチベット仏教僧に師事していることに触れ、チベットとの関係はより親密になるのではないかなどと語り続ける。まるで、そのおかげでチベットの未来に一筋かそれ以上の光が差すかのようだ。

だが、本当にそうなるのだろうか?中国文化の祖先、孔子には「其の言を観、其の行を察す」という名言がある。18大以降、まもなく大きな権力を完全に握ろうという習近平が最も多く使っている言葉は、「中華民族の偉大な復興の実現」だ。それを「中国の夢」という言葉に凝縮しているが、彼の空想だとは思えない。なぜなら、彼はきれいな標準語で、「中国の夢とは何か?中華民族の偉大な復興の実現こそ、近代以降で最も偉大な中国の夢だ。歴史上のいかなる時期よりも、現在はこの目標に近づいている」と強調したからだ。

共産党の伝統では、全ての指導者がそれぞれの綱領を持っている。鄧小平は「改革開放」、江沢民は「三つの代表」、胡錦濤は「和諧社会」だった。習近平は「中華民族の復興」だろう。では、「中華民族の復興」と密接なつながりを持っているものは何だろう?今年1月28日、釣魚島情勢についての習近平の態度表明は強硬だった。彼は「我々の正当な権益を決して放棄してはならない。国家の核心的利益を決して犠牲にしてはならない。いかなる外国も我々が核心的利益を取り引きに使うことを期待してはならない。我々がわが国の主権と安全、発展的な利益を損なう苦い果実を飲み込むことを期待してはならない」と述べた。言うまでもなく、この「核心的利益」は主に領土と主権を指している。

既にアナリストが気付いているように、習近平は前任者とは異なり、「中華民族の復興」を強調することで民族主義的な立場を見せている。「中国の夢」は中華大帝国の夢だ。見渡せば、古い帝国主義国家が落日を迎え、新興の帝国主義国家が台頭している。領土主権は最も重要であり、既に手中にあるものは決して放棄せず、手中にないものは極力奪い取る。事例は二つある。中国は昨年、新しいICパスポートの地図を通じ、南シナ海と中印の係争地、台湾に対する主権をはっきりと示した。釣魚島をめぐる争いでは、習近平は自ら「釣魚島非常事態対処グループ」のリーダーに就任し、軍や情報、外交、海洋監視部門を統括している。

チベット人にも夢はある。二つのうちのどれかだ。まず、ダライ・ラマ法王が中道路線で求めているチベットの高度な自治だ。しかし、チベット独立の願いも日一日と大きくなっている。共産党にすれば、中道路線は「事実上の独立」であり、「独立」と同じく許しがたい。ともに領土と主権、中国の「核心的利益」に触れるのだから、こうした夢は必ず粉砕しなければならない。

「中華民族の偉大な復興」を習近平が実現できるとは信じず、「心と魂を奪われた民族は復興できない」と考える人もいる。だが、一つはっきりしていることがある。それが実現するかどうかに関わらず、「中国の夢」にチベット人の夢は含まれないという事実だ。

(RFA特約評論)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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