チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年2月28日
ダライ一味の命を受け焼身を教唆したとして再び5人を逮捕
今年1月末に、同じく甘粛省甘南州で焼身に関連し故意殺人罪に問われ7~12年の刑を受けた6人の裁判。
中国政府の宣伝メディアである新華網(新華社電)は2月27日付けで、甘粛省警察が「ダライ一味の画策、煽動に乗り、連絡を取り、甘南で3人の焼身者を死に至らしめた」として5人のチベット人を逮捕したと発表した。(元記事http://news.xinhuanet.com/politics/2013-02/27/c_114827053.htm)
今回逮捕された5人とはダルギェ、サムテン、タシ・ギャンツォ、テンペー・ギェルポ、テンサンという。
3人の焼身者とは、去年10月23日にサンチュの警察署近くで焼身、死亡したドルジェ・リンチェン(57歳、詳しくはhttp://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51766632.html)、去年10月26日にサンチュ県サンコク郷で焼身、死亡したトゥプワン・キャプ(23歳、詳しくはhttp://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51767074.html)、去年11月10日にツゥ市ルシュ郷ルシュ僧院内で焼身したゴンポ・ツェリン(18歳、詳しくはhttp://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51768943.html)とされる。
ダルギェ、サムテン、タシ・ギャンツォの3人はこれら焼身者3人の写真と関連情報を外国に伝えることで民族間の分裂を助長し、社会に危害を及ぼしたという。特に主犯とされるダルギェ(21歳、僧侶)はダライ一味である海外のチベット独立組織TYC(チベット青年会議)のメンバーからの指示を受け、焼身者候補を選び、「焼身者は英雄」と彼らを唆したという。また、アメリカのメディアVOA(ボイスオブアメリカ)のアムド語放送(本当はVOAにアムド語放送なんてものはない)とも連絡を取り、焼身を組織、画策、煽動、教唆し、人民を殺害したとされる。
TYCが中国当局により焼身を教唆、煽動するのに関わったと批難されるのはこれが初めてではなく、これまでに何度も名前が上げられている。(例えばhttp://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51773653.html)
これに対し、TYC議長のツェワン・リクジンは「根拠のない、全くの偽りである」と関係性を完全に否定し、中国の指導者たちは、そのような「不毛な試み」を捨て「焼身者たちの要求である、チベットの自由とダライ・ラマ法王のチベット帰還について真摯に考えるべきだ」とコメントしている。(詳細:http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=32858&t=1)
VOAもすでに、去年末に中国が政策した焼身に関するプロパガンダビデオの中で名指しで焼身を教唆したと批難されている。これに対し、VOA代表のDavid Ensor は、この批難は根拠のない「全くの偽り」であり、焼身は「チベットの弾圧を象徴する悲劇である」とし、ビデオを発表したCCTV(中国中央TV)に対し撤回を要求している。(詳細:http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=33011&t=1)
今回名前が上げられた3人の焼身者の内ドルジェ・リンチェンについては、すでに当局による救出を妨害し、遺体を家族の下に届けたとして6人のチベット人に7~12年の重い刑が言い渡されている。(詳細:http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51778710.html)
ダラムサラベースのTCHRD(チベット人権民主センター)は、中国当局が焼身抗議を犯罪化し、「殺人罪」を適用することは、政治的目的のために法律を利用する「批難されるべき行為」であるとコメントする。
国連、EU、アメリカ、カナダ、イギリスは何度も声明を発表し、中国がチベットの状況を悪化させていることを批難し、チベット人の苦しみを認識し、これに答えることを要求している。
中国当局はチベット人の焼身抗議を自分たちの弾圧の結果と認めようとはせず、原因をダライ一味に着せることにより責任回避している。そして、そのシナリオに沿った偽の告白を拘束者への拷問により引き出す。このような当局の態度はチベット人の焼身を抑制する効果をもたらさず、反ってチベット人たちの反感を強め、火に油を注ぐ結果になっている。
今回正式に逮捕されたという5人にも、重い冤罪の刑が与えられると思われる。
その他参照:27日付けTibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7383
27日付けphayul http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=33107&article=China+arrests+five+more+Tibetans+on+self-immolation+charges
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)