チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年2月23日
「国際母語デー」にチベットでは
先日2月21日は「国際母語デー」であった。「国際母語デー」とは言語と文化の多様性、多言語の使用、そしてあらゆる母語の尊重の推進を目的として、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が1999年11月17日に制定した、国際デーのひとつである。世界的に英語その他中国語等の圧倒的な隆盛の中で消滅したり、消滅の危機にさらされる言語が後を断たない状況の中で、世界各地の母語の重要性を思い出し、これを維持することを訴えるという意義深い日である。
チベットにおいては、中国当局の漢語強要政策により日増しに消滅の危機が増している文化の基底であるチベット語の重要性を再認識し、これを守ることは今や緊急の課題となっている。近年、アムドを中心に教育メディアからチベット語が排除されることに反対する学生デモが頻繁に行われている。中国当局はこれらのデモに対し暴力的鎮圧を繰り返している。
どうにかしてチベット語を子供たちに教えたいという親たちの意向を受け、僧院や村の寺小屋で行われるチベット語クラスさえ当局はいちいち潰そうとしている。また焼身者たちの多くが最後の遺言として、チベット人としてのアイデンティティーを守るために純粋なチベット語をはなすことを同胞に求めるている。
そして21日、チベット内地では当局の厳しい監視にも関わらず、この「国際母語デー」を記念する行事が各地で行われたというニュースが伝えられた。
「2月21日国際母語デー」、チベット語を守ろうと訴える張り紙
RFAによれば、アムド、ケンロ(甘粛省甘南チベット族自治州)のマチュやルチュをはじめ、その他各地でこの日に合わせたチラシが張り出された。その中には「純粋な母語よ永遠に」「母語を死守せよ」「(中国語との)混合語を捨てよ」等と書かれていたという。(チベット語では母語と言わず父語ཕ་སྐད་と言う)
また、アムド、ゴロ州チクディル県ザユルの遊牧民地帯ではこの日を記念して、地域の有志が組織した「言語保護協会」の主催により、ダライ・ラマ法王の写真を掲げ、地元の作家、詩人、学生たちがそれぞれチベット語による詩の朗読を行うというイベントが開かれた。
中国当局はこのようなチベット人が自らの言語を守ろうとする運動を、民族の統一を妨げる分裂主義者の政治的運動と見なし、主催者を逮捕するということも行っている。また、中国側のこのような硬直した態度が、チベット人をしてデモを行ったり、法王の写真を掲げるという行動に走らせるのである。
参照:22日付けRFAチベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/international-mother-language-day-02222013160145.html
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)