チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年2月9日
焼身を唆したと13年 香典を与えたと4年
パクパと呼ばれる、孤児院の先生をやっていたというパクパ(27)と呼ばれる立派な青年が逮捕され、焼身をそそのかしたとして殺人罪に問われた、ということは先のブログ>http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51778047.htmlでかなり詳しく報告した。
そのパクパが2月8日に、青海省黄南チベット族自治州の中級人民法院で裁判に掛けられ、13年の刑を言い渡されたという。写真を見る限り、傍聴人はいなかった可能性が高い。いれば、間違いなく写すであろうから。
故意殺人罪で9年、国家分裂煽動罪で5年、計13年(合わせて勘案して)その他政治権利剥奪2年。中国当局いうところの彼の罪状はすでに、詳しく上記のブログに書いてあるが、つまり短く言えば、インドに亡命しチベット独立運動に感化されたチベット人若者が故郷に帰り、周囲に独立思想を植え付け、1人の僧侶を焼身するよう教唆し、小学校生徒のデモを煽動したというものだ。(中国語の元記事は:http://news.163.com/13/0208/14/8N6RKN4B00014JB5.html)
実際にはその僧侶は焼身していないのだ。それなのに故意殺人罪とは不思議である。今回も自白が主な証拠であるらしい。間違いなく拷問をうけたパクパ(འཕགས་པ་)は哀れである。
さらに同じく8日午後、同じ黄南チベット族自治州の中級法院は、焼身者を弔問し香典を渡したというだけで、1人の加徳合(Gyadehor)と中国語表記される60歳になるチベット人に国家分裂煽動罪で4年の刑を言い渡されたという。(中国語記事:http://news.xinhuanet.com/legal/2013-02/08/c_114658692.htm)。香典って中国にはない習慣なのでしょうか? 葬式に香典もって行かないわけにはいかないと思うが、、、このチベット人は60歳だ。立派な年配のチベット人が葬式に香典を持って行かないとうことは日本だけでなく、チベットでもないのだ。
最近、この黄南チベット族当局はこれまでに焼身関係で70人を拘束し、その内12人をすでに正式に逮捕したという。同じく焼身が続いた隣の甘粛省甘南チベット族自治州では党書記の魏建栄が先月24日に「ダライ集団の扇動により州内で焼身21件が起きたが、18件を解決した。事件に関わった16人を逮捕し、5件は裁判所で審理中」と発表している。この16人を入れれば合わせて少なくとも86人が両州だけで逮捕または拘束されているということだ。
「18件を解決した」と誇らしげに発表したそうだが、とにかくチベット人の「焼身」は何らかの仕方で解決せねばならない「(政治的)事件」であると認識していいることは判明した。1人の人が焼身して死んだ(未遂を含む)後にそれを「事件」にして、何をどう「解決」するのであろうか?定義がわからないと普通の人は考える。
ただ、中国にとって「解決」とは最初から決まっている。「ダライ一味の差し金」或は「政治的なものでなく、個人的理由」である。「自分たちの弾圧のせい」はもちろん決して含まれない。焼身関連者として拘束した者を眺めながら、それぞれの焼身者との関係を作り出し、筋書きが考え出される。拘束者たちはその筋書き通りの偽の自白書にサインするまで拷問される。サインした後も裁判が終わるまで、その偽の自白を本当だと言い続けることを、これも、拷問あるいは家族等への脅迫によって守らせる。
もっとも、上の「香典で4年の刑」って話もあるし、もうなんだってありなのだ。すべて国家分裂煽動罪にすることができるのだから。
甘南チベット族自治州の役人は「焼身事件は域外にあるダライ一味の差し金であり、焼身者の写真や情報を先に域外に送った後に焼身している。焼身者のある者は頭がまともでなかったり、人生に絶望した人たちである。焼身により、人々に讃えられることを目的に焼身したり、ごく少数の民族主義者たちに、『民族の勇者』になれると唆されて行ったものである」と発表している。
日本ではこのところ、中国の「赤外線レーダー照射事件」が取りざたされている。今日の新聞によれば、中国側は真っ向からこれを否定し、「お前たち嘘のいちゃもんつけてんな。ただじゃおかねえぞ」と完全開き直り。トップである指導部であろう外務省であろう、下は甘粛省の何とか州であろう、中国で(当局が)自分に都合のいいように、嘘を付くことは当たり前なのだ。日本人のように「嘘は恥ずかしい」なんて全く思わないのだ。
参照:8日付けRFAチベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/tibetan-sentenced-for-13-years-02082013132741.html?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
8日付けTibet Expressチベット語版http://www.tibetexpress.net/bo/home/2010-02-04-05-37-19/10105-2013-02-08-10-11-19
9日付けTibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7293
8日付けphayul http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=33018&article=China+sentences+Tibetan+to+13+years
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)