チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年12月14日
蒼い花
酷寒のジェクンドに時ならぬ蒼い花が咲いた。
これを見つけた地元のチベット人は、
奇跡だ!何か良いことが起る前兆かも知れない。
この喜ばしい知らせはすぐに伝わり、
人々は列をつくり、まるでラマにでも会うときのように
この花にカタを捧げるために集まった。
冷たい風からこの蒼い花を守るように
回りに山のようにカタを盛り、祈った。
この動きを察知した当局は
すぐにヘルメットを被った警官を大勢現地に派遣。
小さくて可憐な蒼い花に
人々を近づけさせないように
回りに輪を作り囲った。
厳重な警戒網が敷かれたのだ。
この蒼い花はみたところ、トリカブトの花に見える、トリカブト(チベット語བོང་ང་ནག་པོ་)はその猛毒で知られる。敵を殺すことができる。一方、チベット医学というか漢方においても、この塊根は強心剤、鎮痛剤として使われる。中国人には縁起が悪い花に見え、チベット人には縁起のよい吉祥花に見てたのかもしれない。
さて、この花がなぜこんな冬に突然花を咲かせたのかということは不明だし、この狂い咲きがどれくらい希有な現象なのか図り難い。しかし、日本でいえば、例えば「根性大根」のようなもので、これは新聞にも取り上げられ、困難な環境にもめげず季節外れの花を咲かせたということで、庶民の賞賛の的になってもいいようなものだ。
世界中の普通の人にとっては、チベット人がなぜこんなにも1つの花に祈ったりするのかも不思議であろうし、また、一方中国当局がこれを阻止する行為にはもっと不思議を感じることであろう。説明抜きには両方とも理解不可能だ行為なのだ。
なぜ、チベット人がこの花にカタをと祈りを捧げるのか?それには、まず、このジェクンドという土地が3年前に大地震に襲われ、何千人もの犠牲者が出たこと、その後、政府は膨大な寄付金を集めていながら、被災住民にはこれっぽっちも援助を与えず、3年経った今もテント暮らしを続けざるを得ない人も多いということ。政府はまた、これを都合のいいチャンスと見て、かつてのチベット人の土地を取り上げ、街全体を漢人中心の一大観光地に作り替える計画を進めているということを知らねばならない。住民の怨念は爆発寸前まで募っている。
住民はいまこそ、奇跡、チベットの自由、法王の帰還を願っているのだ。
中国当局は基本的にチベット人の考え方はすべて古く野蛮であると認識している。また、人が集まれば、これは危険な分裂主義的徴候であると判断する。弾圧しているのだから、それが爆発するはずであるといつも警戒している。だから、ここは先手を打ち、なにも起っていなくても規制の対象として潰すべきなのだ。
このようなことをされるチベット人たちの心の中には当然反感が募る。当局=漢民族に対する敵対心は募るばかりだ。まさに分裂主義者を作り出しているのは中国当局なのだ。「反分裂で飯を食い、反分裂で出世し、反分裂で財をなす」役人がいる限りこの対立は先鋭化するばかりだ。こんなチベット人の心を踏みにじるばかりのバカげたことを繰り返していれば、いつか、大爆発するであろう。
この絵は井早智代さんがこの話を聞いて早速描かれたもの。
横たわった人の胸から蒼い蓮の花が咲きでている。
この人は地震で亡くなった人なのか、あるいは焼身者であろう、と想像する。
「蒼い花」革命!
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)