チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年12月13日
焼身や抗議デモに関する連行、刑は増加 新体制による弾圧強化か?
12月9日にアムド、ツェコ県ドカルモ郷で焼身、死亡したペンチェン・キに捧げられた井早智代さんの絵とことば(原文英語)。
「あなたは家の近くの緑の草原で焼身した。祖国の大地に帰らんとする如くに。望み通り、家族と2千人が集まりあなたを守った。
ダラムサラには慈愛の雨と清めの雪が降る。ここから私たちは、祈りつつ、キャンドル・ライトと蓮の花を送る」
十八党大会が終わり、中国は新体制への移行期に入っている。法王初め多くのチベット人は習近平体制になれば、チベット問題にも希望が持てるのではないかと感じていた。しかし、最近の当局の動きを見る限り、そうではなく逆に弾圧は強まる傾向にあるようだ。
まず、数日中に伝えられた新たな連行、刑期確定のニュースをお伝えする。
17歳の中学生が焼身し5人連行
12月9日、アムド、ツェコで内外合わせついに100人目となる焼身者がでた。その焼身者は17歳の少女であった。http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51772349.html
彼女は中学校の生徒であった、彼女の葬儀は当局の邪魔が入る前にと、その日の夜急いで行われた。葬儀には約2千人のチベット人が集まったという。次の日にも大勢の僧侶、尼僧が法要を行おうと家族の下に集まった。しかし、この日、当局は大勢の部隊を彼女の家に派遣し、集まっていた僧侶、尼僧を追い払い、結局4人の僧侶のみに法要を続けることを許可した。これをみて家族はひどく落胆したという。
そして、12日には彼女の焼身に関わったとして5人の僧侶、在家修行者、尼僧が連行された。RFAによれば、5人とはツェコ県ドルジェ・ゾン僧院僧院長であるアク・ツォンドゥ(49)、ンガクパ僧院のンガクパ(在家修行者)チャクタル(47)とシャボ(30)、ドカルモ郷の尼僧院の指導的地位にある尼僧チュドゥンと11月25日に焼身、死亡したサンゲ・ドルマの姉である尼僧リクシェ。
彼らは何れも、地元ドカルモ郷の僧院、尼僧院の責任者的地位にある人たちである。ドカルモ郷では先月以来4人が焼身抗議を行っている。今回連行された5人は焼身者が出る度に当然のこととしてその法要を行ったであろう。当局は彼らを捕まえることにより、1つには焼身者への法要を牽制するつもりと思われる。また、それだけではなく、彼らに何らかの連帯責任を負わせるか、焼身を煽動した罪が帰せられる恐れもあると思われる。
その他、ドカルモ郷ではそれ以前の焼身に関わったとして何人かが連行されている。今も拘束が続いているという情報もある。
この部分参照:12日付けRFA英語版http://www.rfa.org/english/news/tibet/detained-12122012165449.html
12日付けTibet Expressチベット語版http://www.tibetexpress.net/bo/home/2010-02-04-05-37-19/9839-2012-12-13-07-18-02
学生デモに厳罰
先月26日、アムド、チャプチャ(共和県)で1000人以上の学生が参加する大規模な抗議デモが発生した。http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51770778.html
当局はこのデモを武力鎮圧し、20人以上の学生が重軽傷を負った。このデモのきっかけとなったのは、当局がこの地域の各学校で愛国再教育を行うために小冊子を配ったからだ。その中ではダライ・ラマ法王が非難され、チベット語は不要な言語、焼身をバカげた行為だと書かれていた。これが学生たちの強い反感を呼び起こした。ちょうどその日には3人のチベット人がチャプチャから遠からぬ地区で焼身抗議を行っている。
デモはチャプチャの衛生学校の生徒を中心に行われたが、当局は直ちにこれを煽動したと見なした8人を連行した。そして、10日後には彼らにそれぞれ5年の刑を言い渡した。もちろん、弁護士も付けられず、家族も同席できない秘密裁判による判決である。
全員衛生学校の生徒で年齢は18歳から23歳。名前はラプテン、ワンドゥ・ツェリン、ジャンパ・ツェリン、チュキョン・キャプ、サンゲ・ドゥンドゥップ、ドラ・ツェリン、ツェリン・タシ、クンサン・ブム。
このデモについては、されにこのデモの映像と詳細を外国に伝えたとして12月1日から3日にかけて、チャムル僧院の僧侶3人が連行されている。名前はスンラップ・ギャンツォ、ダサン、イシェ・サンポ。
当局はされに10日、レゴンにある甘南民族師範学校の生徒18人も連行したという。理由は明らかでないが、連行されたほとんどの生徒はツェコ県出身であったという。
弾圧強化の徴候か
新華社が最近「他者の焼身を扇動、幇助した場合には故意殺人罪を適用する」と言う記事を発表したということは昨日のブログに書いた。これは政府が焼身抗議に対し連帯責任を負わせることを法律的に規定し、処罰のベースを作ったということだ。もっとも、当局は法律に書いてあろうがなかろうが、これまでにも焼身を煽動したという罪でチベット人を罰している。ま、だから今回は政府が焼身に対して、これまでよりも厳しい態度で望むという新体制の姿勢を公にしたということだ。そして、これを契機に沢山のチベット人が連行され始めている。
同じく学生デモは2010年の秋を中心にこれまでにも沢山あったが、以前なら拘束された学生の内、数人が刑期を受けただけである。今回のように10日後に8人に5年の刑が言い渡されるということは異例と言える。連鎖反応を引き起こしかねない学生デモに対し、ここで厳しく罰することにより、脅し効果を狙ったものであろう。
チベット自治区の主任であるジャンパ・プンツォは「チベット自治区で焼身が少ないのは、ちゃんと統制されているからだ」と発言したという。つまり、彼は自分たちの弾圧ぶりを誇り、他のカムやアムドで焼身が多いのは弾圧が緩過ぎるからだ、もっと強くすべきだと言っているのだ。
暴力(武力)と金(経済)しか信じない共産党政権は、暴力的脅しにより人は動物のようにおとなしく従うようになると信じて疑わない。人は他の動物とは違うのだということを理解するのはいつのことであろうか?
参照:12日付けRFA英語版http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=32641&article=School+students+and+monks+arrested+over+Chabcha+protests
13日付けTibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7059
その他。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)