チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年10月31日
警察署長がデモ参加者を十分逮捕しなかったとして免職 住民は彼を讃え、抗議方法へのアドバイスを聞く
ゴロ州ペマ県では今年1月中に何度も僧侶や一般人による平和的抗議デモが連続的に行われた。(詳しくは例えば>http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51727379.html)
これに対し地元の警察は6人を逮捕しただけだった。逮捕者が少な過ぎると判断した州当局は県の警察署長に対し、「3ヶ月以内にデモに参加した者をもっと多く逮捕しろ。そうしない場合はお前を解雇する」と言い渡した。これに対し県の警察署長であるチベット人のペル・トップ(དཔལ་སྟོབས་)は「解雇されようと、これ以上誰も逮捕しない」と答えた。そして、言葉通りそれ以降誰も逮捕しなかった彼は7月1日に解雇された。
この事情を聞きつけた地元のチベット人たちは、彼の家を尋ね、「よくやった」と彼を英雄扱いし、祝福の印にカタを捧げ、仕事を失いお金に困っているだろうと、お金を差し出す人も多かったという。また、1月に多くの僧侶がデモを行ったアキョン・チョナン僧院は彼を特別に招待し、ここでもカタとお金が差し出された。さらに、僧侶たちは「これからの抗議活動は如何に行うべきか?」と彼に質し、アドバイスを請うたという。(残念ながらアドバイスの内容は書かれていない)
8月1日には、近くの聖地に呼ばれ、チベット服を着た彼が焼香と共に、演説を行うということがあった。その時には彼の家からその場所まで300台の車が伴走したという。
RFAにはこの件に関するロバート・バーネット、コロンビア大学教授のコメントが紹介されている。「ペル・トップの今回の行動はチベットの警察組織の中で特異な現象と言えよう。チベットでは警官の昇進と報酬は、どれだけ反体制派を弾圧したかに依るからだ。少なからぬ(チベット族の)警官たちが、どうすべきかについて迷っている。他に方法はないのかと考えている。しかし、これは表立った議論には決してならない。システムがそうさせないからだ。恐れ、黙って従うしかないのだ」と。
参照:22日付けTibet Expresshttp://www.tibetexpress.net/bo/home/2010-02-04-05-37-19
26日付けRFA英語版http://www.rfa.org/english/news/tibet/hero-10262012094500.html?searchterm=tibet
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)