チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年10月24日
TCV第52回創立記念祭 チベットBefore・After
ダラムサラでは昨日、10月23日から3日間、TCV(チベット子供村、チベット難民学校)創立記念祭が行われている。
今年で創立52年目。TCVは1960年に51人の子供を預かる保育園として始まった。最初はダライ・ラマ法王のお姉様であるツェリン・ドルマ女史が責任者であったが、彼女が間もなく亡くなられて後は法王の妹であるジェツン・ペマ女史が長い間、責任者であり、その間に大きく発展した。今では学生と職員を含め16000人以上の組織である。長年主にチベットから新しく亡命して来た子供たちの面倒をみていたが、2008年以降、亡命できる子供の数が激減し、最近はその代わりにヒマラヤ南麓地区の子供たちを多く受け入れている。
写真奥のバナーの真ん中には焼身するチベット人の姿が描かれている。今年のイベントはとにかく焼身一色であった。
昨日のイベントの目玉は子供たちが演じる「チベットBefore・After」であった。校庭の真ん中に人垣によりチベットが描かれ、中国に侵略される前と後の様子が演技によって表現された。この劇については、後で詳しく紹介する。
要人を迎えるのには必須のアチャラモ隊。今回のメインゲストであるギャワ・カルマパの到着を待つ。
朝9時、ギャワ・カルマパがTCV校庭に到着。この創立記念日にはダライ・ラマ法王がお出でになることも多いが、今回法王はアメリカ訪問からまだ帰られていないということで、代わりにカルマパが出席。カルマパは若者代表であり、このような式典にはお似合いというわけだ。
まず鼓笛隊に先導され、各学校の選手団が入場。3日間の内、2日間は各学校の代表選手による運動会なのだ。
全員起立し、焼身抗議者をはじめ、これまでチベットの自由獲得のために犠牲となった人々に1分間の黙祷。その後、チベット国歌等が斉唱された後、最近日本をも巡った「真実のトーチ」が校庭を一周した。
その後、なが~い演説が始まる、まずTCVダイレクターのツェワン・イシェ氏がTCVの歴史、概要、会計報告等を行う。ちなみに去年のTCVの出費は512,125,902.49インドルピーだそうである。
約8億円である。16000人を8億円で食わし、教育を与えているのであるからこれは非常に効率のいい話である。歳入の内20%がチベット人社会から、その他80%が外国人の里親制度や寄付によるものという。
次の演説は内閣を代表し宗教大臣が、次に議会を代表し議会議長が、そして最後にカルマパ。とにかくみんな演説が長い、会場が大きくスピーカーの調子もよくないということで、ほとんど聞き取れなかった。というか、みんなあんまり聞いてない。
今回の内容の特徴は、とにかく、内地チベット人との連帯。カルマパも「内地のチベット人はチベット文化や宗教を守ろうと命を掛けている。外の自由な国で教育の機会を得ている我々はひと時の時間も惜しみ勉強に励まねばならぬ。これが亡命した目的と初心であったはずだ、忘れてはならぬ」と訓示。
まず、生徒たちの人垣により描かれたチベット全土の地図の中に、中国に侵略される前の「仏教が栄え、自然も豊か、平和で歌と踊りに満ちていた」というチベットが演じられる。
ラサのポタラ宮殿には法王がいらっしゃり、チベット国旗がはためいている。
ツルやら、ヤクやら、猿やらがたくさん人を恐れる事なく遊び、子供たちは様々な遊びに興じ、多くの僧侶たちが仏法を説き、人々は踊り、歌っている。
しかし、このような高天原浄土世界は中国軍のチベット侵略により、突然地獄と化す。1951年、東のカムから侵攻した解放軍はチャムド、ラサを制圧。59年にはついにダライ・ラマ法王がインドに亡命せざるを得なくなる。
ポタラ宮殿には中国国旗が掲げられ、人々は捕らえられ、やがて、文革の地獄がやって来る。
この辺で、これを見ていた多くのチベット人が本当に泣き始めた。
強制移住を命令される遊牧民たちが、自分たちの生活を奪わないでほしいと懇願する。が、聞き入れられず、逆らった1人が撃たれるの図。
1人の遊牧民が涙ながらにチベットの現状を訴え、世界の人々に助けを求めるというシーン。
演技ではあるが、ここの子供たちのほとんどはチベットから最近逃げてきた子供たち。親や友人を本土に残している。連帯なんて言われなくても分かってる。本気で演じているのだ。
これを演じているのはTCVに預けられている、ナムギェル僧院の本物の子坊主さんたち。もちろん、デモは武装警官隊により中断され酷い暴力を受け、連行される。
子供が演じるこれらのシーンを見て、涙を流すチベット人はさらに増す。
この日までに判明していた57人の焼身者の顔写真が全て並ぶ。(57人は政府発表。顔写真がなく、名前だけの人もいる。そして、この日もう1人増えた)
祈りのお経を唱える僧侶(小坊主さん)たち。小さくともちゃんと本物の僧侶であるからお経はよく覚えている。
内容はこれも、焼身者を弔い、団結への決心、チベット自由の誓いを歌うというもの。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)