チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年8月31日
帰郷しようと国境を越えたチベット人を拘束後、再びネパールに送り返す
今月に入り、ネパールからダムやナンパラ峠経由で国境を越えチベットに帰り、拘束された2組のチベット人たちが、再びネパールに追い返された。これはこれまでにないやり方である。
今月29日、自治区シガツェの拘置所に3ヶ月半に渡り収監され、強制労働を強いられていた11人のチベット人がネパールとの国境ダムでネパールの警官に引き渡された。その内の1人はインドで勉強した後ダム経由でチベットに戻ろうとして拘束されたチベット人。他の10人は今年始めブッダガヤで行われたカーラチャクラ法要に参加した後、インドの仏跡等を訪問し、ナンパラ峠経由でチベットに入ったが、国境警備隊に見つかり拘束されたというチベット人たちであった。
彼らは3ヶ月半後にトラックに載せられたが、行き先は告げられなかったという。国境のダムに着く直前に自治区政府の命令でネパールに帰されるということを知らされた。その際、チベットで持っていた中国の身分証明証を「もう必要ないだろう」と言い、取り上げられたという。
その内の6人は結婚し家族がチベットにいる人たちである。彼らは元々亡命するつもりでチベットを去った訳ではなく、カーラチャクラ法要に参加するために一時的に国境を越えた人たちであった。中国の身分証明証も取り上げられ、この先家族の下に帰ることもできないのか、と途方に暮れているという。
彼らはカトマンドゥの出入国管理事務所に送られた後、国連難民高等弁務官事務所を通じチベット人難民一時収容所に送られた。
8月23日にも同じように5人のチベット人がネパールに送り帰されている。彼らも故郷に帰ろうと国境を越えた後、見つかり、シガツェの拘置所に4ヶ月以上拘留されていた。彼らは一時収容所から再びインドに送られたという。
参照:31日付Tibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=6538
30日付RFA英語版http://www.rfa.org/english/news/tibet/blocked-08302012152040.html
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これまでは一旦インド等に亡命したチベット人がビザを持たずにネパールから国境を越えチベットに帰った場合、国境付近で見つかれば、シガツェの拘置所等に数週間から数ヶ月拘束された後、それぞれの故郷に送られることになっていた。国境付近で見つからず、故郷まで帰ったときにはその地区の拘置所で拘留され、後解放されていた。
このように、ネパールに追い返されるというケースはこれまでにないことだ。これが、カーラチャクラ法要に参加し、直ぐに帰らなかった者たちへの「もう二度と故郷には帰れないぞ」という嫌がらせなのか、帰還者への新しい方針なのか、はっきりしない。
一方でここ数年、限られた人たちを対象にするものではあるが、亡命チベット人に対し、短期、或は長期の帰還ビザを発行するということも行っていたりする。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)