チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年4月27日

リタン一帯で法王と亡命政府首相を非難させるキャンペーン 拒否する住民に文革式制裁

Pocket

887abf7aカム、リタン(RFAより)

2ヶ月ほど前からカム、カンゼ州リタン県(ལི་ཐང་རྫོང་理塘)一帯とナクチェ県(ཉག་ཆུ་རྫོང་)の一部に役人が大勢現れ、ダライ・ラマ法王と亡命政府首相センゲ氏を非難する書面に署名を強要するキャンペーンが行われている。

その中、現地と連絡を取った亡命議会議員アトゥック・ツェテン氏が、センゲ首相の父親の出身地であるリタン、モラ(མོ་ལ་)村の状況を詳しく報告している。

モラ村では2ヶ月ほど前から、役人が家々を周り、「冬虫夏草に関する争いをなくすための署名だ」と嘘を付き、書面の内容をよく説明することなく署名を迫っているという。字も読めない村人の中にはこれに署名するものもいた。最近になり、村人の間でこの書面は「ダライ・ラマ法王とセンゲ首相を非難するものだ。署名してはいけない」という話が広まった。2人の村人が署名したことが判明し、2人は他の村人たちから「お前たちは村八分だ」と非難された。2人は「冬虫夏草に関する書面だと聞かされていただけで、本当の内容を知らなかっただけだ」と弁解し、謝罪の印に500元を払ったという。

この書面は7項目を含んでいるというが、このうち最初の3項目だけが伝えられている。
1)亡命政府首相センゲが約束するダライのチベット帰還に反対する。
2)焼身等、チベットの今の緊張状態創出はダライが画策したものである。
3)ダライ一味を非難する。

ツェテン氏によれば、このキャンペーンはリタン一帯で広く行われているという。これに対し地域のチベット人たちは全面的に拒否の姿勢を見せており、各地で拘束者が出ているという。

今月半ば、リタンの役人が300人以上の武装警官隊を伴いモラ村に現れ集会を開いた。「この7項目の書面に署名し、分裂主義者ダライを非難し、ダライがチベットに帰ることに反対すべきだ。問題があるなら何でも言うがよい」と演説した。

会場は静まりかえり誰も発言するものはいなかった。役人は不機嫌となり、ある老人を指差し意見を述べるよう迫った。その老人は「死ぬ前にインドに行ってダライ・ラマ法王に一度でもお会いしたいと願い、何度もパスポートを申請しているが、まったく手に入れることができなくて悲しい」と答えた。もう1人の老人は「嘗て兄弟2人が中国軍によって殺された。これが私の人生でもっとも苦しかった経験だ」と答えた。

これを聞いて、役人は「お前たち、そんな口をきいてたらただではすまないぞ!」と怒鳴った。これに対し集まっていたチベット人たちは「署名などするもんか!」と声を上げた。これを見て部隊が参加者に襲いかかり、署名を強要した。署名しないものは暴力を受け、中には髪を切られるものもいたという。

さらに、「役人たちは署名を強要するために文革時代そのままのようなやり方を行った。署名しないものたちは村人同士で非難し合うことを強要され、家族が呼ばれ、公衆の面前で家族同士で非難し合い、署名しないものを殴らせた」とツェテンは報告する。現在もこの署名強要は続けられており、モラ村一帯は非常に緊張した状況という。

センゲ首相の血縁者も残っているであろうこの村が、特に当局の標的となったということも考えられる。

リタンのシャクパという地区でもこの署名キャンペーンが行われたとき、住民は署名を拒み、衝突も起こり60人程が拘束されたという。

また、無期懲役を言い渡されているテンジン・デレック・リンポチェの僧院や付近の村でもこの署名キャンペーンが行われたが、僧侶や住民はこれに強く反対し、現在非常に緊張が高まっているという。

もう1人の報告者、南インドバイラコピ在住チベット民主連合会長セルメ・ロガ氏が明らかにするところによれば、この署名キェンペーンはリタン県以外に東隣のナクチュ県にも及んでいるという。

彼が知る限りリタンとナクチュで、少なくとも8つの地区と僧院がキャンペーンのターゲットとなっているという。多くの地区では3ページあると思われる書面の内、(3)と書かれた書面だけが示されこれに署名することを強要されている。1枚目と2枚目には分裂主義者の中心であるダライとセンゲ(首相)を支持しないことが書かれているという。

リタン県ではモラ郷、シャクパ、リタンティル、サンチュ僧院とラルカ地区で行われ、最近ラルカでは署名を拒否した若者20人が拘束され、多くのチベット人が部隊により暴力を受けた。その他、リンカド地区、リタン・ユンル地区にもキャンペーン隊が入っているが、どこでも住民たちは全員が署名を拒否しているという。

ナクチュ県のアトック僧院と周辺の村にもキャンペーン隊が入り署名を強要している。

彼によれば、署名拒否や部隊との衝突により、すでに合わせて200人ほどが拘束され、多くのチベット人が負傷したという。

参照:24日付けTibet Express チベット語版http://www.tibetexpress.net/bo/home/2010-02-04-05-37-19/8066-2012-04-24-13-48-43
25日付けRFA英語版http://www.rfa.org/english/news/tibet/signature-04252012175003.html
26日付けRFAチベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/chinese-authorities-launch-signature-campaign-in-tibet-04262012213410.html
26日付けphayul http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=31290&article=Kalon+Tripa’s+native+village+faces+severe+repression

27日付けTibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=5940

関連ブログ4月17日付け「リタンで愛国再教育に抗議 60人逮捕」http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51740603.html

昨日のデルゲとこのリタンの件は共同>産経が短いニュースとして流している。「チベット族数千人がデモ 弾圧に抗議、四川省」http://sankei.jp.msn.com/world/news/120427/chn12042717130004-n1.htm

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

ちべろぐ

Archives

  • 2018年3月 (3)
  • 2017年12月 (2)
  • 2017年11月 (1)
  • 2017年7月 (2)
  • 2017年5月 (4)
  • 2017年4月 (1)
  • 2017年3月 (1)
  • 2016年12月 (2)
  • 2016年7月 (1)
  • 2016年6月 (1)
  • 2016年5月 (9)
  • 2016年3月 (1)
  • 2015年11月 (1)
  • 2015年10月 (2)
  • 2015年9月 (4)
  • 2015年8月 (2)
  • 2015年7月 (14)
  • 2015年6月 (2)
  • 2015年5月 (4)
  • 2015年4月 (5)
  • 2015年3月 (5)
  • 2015年2月 (2)
  • 2015年1月 (2)
  • 2014年12月 (12)
  • 2014年11月 (5)
  • 2014年10月 (10)
  • 2014年9月 (10)
  • 2014年8月 (3)
  • 2014年7月 (9)
  • 2014年6月 (11)
  • 2014年5月 (7)
  • 2014年4月 (21)
  • 2014年3月 (21)
  • 2014年2月 (18)
  • 2014年1月 (18)
  • 2013年12月 (20)
  • 2013年11月 (18)
  • 2013年10月 (26)
  • 2013年9月 (20)
  • 2013年8月 (17)
  • 2013年7月 (29)
  • 2013年6月 (29)
  • 2013年5月 (29)
  • 2013年4月 (29)
  • 2013年3月 (33)
  • 2013年2月 (30)
  • 2013年1月 (28)
  • 2012年12月 (37)
  • 2012年11月 (48)
  • 2012年10月 (32)
  • 2012年9月 (30)
  • 2012年8月 (38)
  • 2012年7月 (26)
  • 2012年6月 (27)
  • 2012年5月 (18)
  • 2012年4月 (28)
  • 2012年3月 (40)
  • 2012年2月 (35)
  • 2012年1月 (34)
  • 2011年12月 (24)
  • 2011年11月 (34)
  • 2011年10月 (32)
  • 2011年9月 (30)
  • 2011年8月 (31)
  • 2011年7月 (22)
  • 2011年6月 (28)
  • 2011年5月 (30)
  • 2011年4月 (27)
  • 2011年3月 (31)
  • 2011年2月 (29)
  • 2011年1月 (27)
  • 2010年12月 (26)
  • 2010年11月 (22)
  • 2010年10月 (37)
  • 2010年9月 (21)
  • 2010年8月 (23)
  • 2010年7月 (27)
  • 2010年6月 (24)
  • 2010年5月 (44)
  • 2010年4月 (34)
  • 2010年3月 (25)
  • 2010年2月 (5)
  • 2010年1月 (20)
  • 2009年12月 (25)
  • 2009年11月 (23)
  • 2009年10月 (35)
  • 2009年9月 (32)
  • 2009年8月 (26)
  • 2009年7月 (26)
  • 2009年6月 (19)
  • 2009年5月 (54)
  • 2009年4月 (52)
  • 2009年3月 (42)
  • 2009年2月 (14)
  • 2009年1月 (26)
  • 2008年12月 (33)
  • 2008年11月 (31)
  • 2008年10月 (25)
  • 2008年9月 (24)
  • 2008年8月 (24)
  • 2008年7月 (36)
  • 2008年6月 (59)
  • 2008年5月 (77)
  • 2008年4月 (59)
  • 2008年3月 (12)