チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年4月26日
ゾクチェン谷で数千人規模の抗議デモ
ゾクチェン郷の公安局と政府庁舎の前に集まり抗議の声を上げる僧侶と地区住民(写真VOAより)
昨日25日早朝から、カム、カンゼ州デルゲ県ゾクチェン郷の公安と政府庁舎の前に数千人の僧俗チベット人が集まり抗議デモを行った。一部報道によれば、この時当局はデモを鎮圧するために部隊を出動させ、10人以上が拘束され、部隊の撲打により大勢が病院に運び込まれたという。
デモはまず、早朝6時半頃(9時半との報告もあり)ゾクチェン・シュリセン・ンガリク学堂とゾクチェン僧院(རྫོགས་ཆེན་ཤྲཱི་སེང་ལྔ་རིག་སློབ་གླིང་དང་རྫོགས་ཆེན་དགོན་པ)のトゥルク、ラマを含めた僧侶を中心に500人程が公安と庁舎の前に集まり、「理由なき弾圧を止めよ!先に拘束された者たちを解放せよ!」との声を上げた。これを知った地域のチベット人たちが続々このデモに参加し、3000人以上に膨れ上がったという。
ゾクチェン僧院では2月27日、宗教的祝祭日に合わせ中国で禁止されているダライ・ラマ法王の大きな写真を玉座上に掲げた。これを拝むために大勢の住民が押し寄せた。この時、当局は役人を送り込み、法要は一旦中止された。
今月に入り22日、当局は警官約60人をゾクチェン僧院に送り込み、僧院内を荒らし、僧坊を捜査し、僧侶たちに暴力を振るった。続く23日と24日には特殊警察隊約100人が加わり、その暴力に拍車をかけ僧院内だけでなく、周りの民家も襲撃した。ギャンツォと呼ばれる村人は「部隊を睨んだ」というだけで激しい暴力を受け、病院に運び込まれたが現在重体という。その他7人が病院に収容され、13歳の僧侶を含む13人が拘束され、尋問中に激しい拷問を受けていると伝えられる。
この事態を受け、昨日25日ゾクチェン僧院僧侶はじめ地域の住民たちが公安と政府庁舎の前に集まり、拘束された仲間の解放とともに、暴力的弾圧を止めるよう求める抗議デモを行ったのだ。
僧侶たちは役人に対し「僧院に対する弾圧を止め、すべての部隊が引き揚げること」を要求し、もしもそうしない場合には「事態は悪化するであろう」と話した。これに対しRFAは「役人は考慮しようと答え、今のところ部隊との衝突はない」と報告し、VOAやTibet Expressによれば、部隊が投入され、衝突が起こり、けが人と新たな拘束者が大勢出たと報告する。これが現地からの報告時点の差なのかどうかは不明。
このところカンゼ州北部で当局部隊が出動し、暴力的にチベット人を拘束したことをきっかけに大きな抗議デモが起るというケースが続いている。
このゾクチェン僧院は中国人や西洋人、日本人にも人気の高い僧院でここで行われる仏教コースに出席する外人も多い。ニンマ派では珍しく2008年以降何度か政治的とも言える活動を行っている。
参照:25日付けVOA英語版http://www.voanews.com/tibetan-english/news/Hundreds-in-Dzongchen-Demand-End-to-Chinese-Force-148884065.html
25日付けRFA英語版http://www.rfa.org/english/news/tibet/protest-04252012141603.html
同チベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/tibetans-protest-in-kham-tibet-04252012220250.html
25日付けTibet Expressチベット語版http://www.tibetexpress.net/bo/home/2010-02-04-05-37-19/8073-2012-04-25-08-32-01
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)