チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年2月26日

リタンの有名な噺家アタルが連行され行方不明

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「2週間程前の夜、突然、頭に黒い布を巻いた大勢の中国の警官が彼の店に現れた」とチベット亡命議会議員のアンドゥック・ツェテンは現地からの報告を伝える。

「彼らは店の中を捜査した後、彼を連行した」

「アタルの親戚がリタン県の警察署に行き、彼のことを尋ねたが、『アタルを連行して行ったのは重大な政治的犯罪者を取り締まる上層の特別警察だ。俺たちは何も知らない』と言われ、行方を知る事はできなかった」という。

アタル(ཨ་ཐར་33)はカンゼ州リタン県では有名な噺家(ཁ་ཤག་སྒྱུ་རྩལ་བ་漫才師/風刺作家)であった。彼はチベットの現状を知らせるためのビデオを準備していたという。去年11月彼を尋ねた在アメリカの友人に対し、彼は「もしも自分が当局に拘束された時には、このビデオを公表してほしい」と言ってビデオを一つ預けていた。

参照:24日付けRFA英語版http://p.tl/_k_A

そのビデオがRFAにより公表された。以下がそのビデオ。

彼のカム訛りのチベット語をソナム(@Kakusimpo)さんが全て書き出して下さった。そのチベット語原文は>http://kakusimpo.tumblr.com/post/18235231240

ソナムさんはさらにこれを日本語に訳して下さった。
(ソナムさんの原訳に私が少し手を加えたところもあるので、文責は@tonbaniということで)

アタル<心からの言葉>

親愛なる皆さま、いま再び私は映像を通じて、国内外に住む大勢のチベットの同胞たちに、私の心からの話をしたいと思います。

私には生まれつき知恵もなければ、後天に学んだ知識もないので、皆さまに満足いただける話ができないかもしれません。理解不足や勘違いもあるかも知れませんが、お許しください。あなた方の大切な時間を少しいただき、私の話に耳をお貸しください。嘘偽りのない、白いミルクのような、心からの話をあなた方に捧げたいのです。

私たちは菩薩である素晴らしき父なる猿の先祖から慈悲と慈愛を、母なる羅刹女の先祖から利他の心を受け継ぎ、愛に育まれ、高地の世界で何千年もの歳月、喜怒哀楽を共に生きて来た「愛しき」チベット人なのです。それが今、どんなことになっているか……

私たちの空は、厚い黒い雲が広がって覆われてしまっています。その雲のせいで、碧い空も、太陽(ダライ・ラマ)の光も、月(パンチェン・ラマ)の輝きも、星々(その他のラマたち)が織りなす天の都もまったく見ることができません。太陽のない曇り、月のない暗闇、星の姿すら見えない黒い雲の下で、とても狭い場所で楽しみが消え、沈黙の日々を過ごすばかりなのです。

さらに悲しいことには、数え切れない金の馬が略奪され、銀の剣を持つ何千何百の戦士が殺され、血肉骨で結ばれている同胞たち何万人もが、生きる場所を失い、帰る日の見えない異郷での亡命生活を続けているのです。世界の人々は文明のなか進んでいるのに、私たちは挫折して、今のような現状になっている。

しかし、世界ははっきりと知っています。心と知恵のあるたくさんの人々が、私たちのために涙を流し、助けたり、支援しようと様々な方法で活動されているのです。

それにもかかわらず、私たちの社会には不善で無意味な行為や争いが少なくありません。例えば、競馬の賭け事、金銀宝石の装飾を競ったり、車やオートバイを買い争ったり、カードゲーム賭博、カムだアムドだウツァンだと地域を区別して争ったり、宗派と教義の争い、土地争い、水争い、道争い、冬虫夏草の奪い合い、男女差別、わけもなく無茶をする人、親族間の争い、良くない神を奉ったり、占いや迷信を信じることなどは、得は一つもなく自分たちの力を削ぐ悪病のようなものです。

今はもう、そのような自らの敵を利するだけの愚かな行為を捨て、(カム・アムド・ウツァン)三つの地域の人々皆それぞれが責任ある行動をとり、地域と宗派を超えて一致団結して、文化と技術で競いあい、正しい母語を話し、自らの固有の文化をまもり、環境を保護し、慈悲と友愛をもち、男女平等を獲得しなければなりません。そのために捨てるべきものもありでしょう。とにかく、私たちにとってもっとも重要なものは民主主義と自由と平等です。お腹いっぱい食べ、欲しい物が手に入り、貯金ができたくらいで満足しているのは恥ではありませんか。

私が訴えたいことは、もはや衣食の苦労がないだけで満足している場合ではありません。自らの宗教と文化、言葉と文字、伝統と風習などを、口先だけではなく実際の行動に移し、世界のほかの人々と同様に、自らの利益と権利を完全に行使できるときに初めて、人間の部類に入ることができると言えるのではないでしょうか。

ありがとうございました。

2月に入りすでに3人の作家や文化人が当局により拘束され、行方不明となっている。チベット人に対する言論弾圧の見本である。彼の話を読めば分る事だが、確かに彼は「空を覆う雲」とか「敵」という言葉を使い「中国」により押さえつけられているチベットの現状を語っている。しかし、話の趣旨はあくまでチベット人の団結であり、人権要求である。これだけのことを語るのにどれほどの勇気がいる事か。今、彼が拷問を受けていることは間違いない。

2008年以降すでに50人以上の作家、知識人、文化人が拘束されている。

ちなみにチベット人の人口を約600万人、日本人の人口を約1億2千万人とすれば、その差は20倍となる。50人というのは日本的には1000人ということになる。日本で1000人の作家、知識人が拘束、逮捕、懲役刑を受けたと想像すべきだ。これと同様、焼身抗議者を23人とすれば、日本的には460人だ!08年以降中国により殺された人は少なく見積もっても250人。これは5000人ということになる。59年以降中国の侵略の犠牲になったチベット人の数を120万人とすれば、これは日本的には2400万人ということだ。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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