チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年12月23日
チベット各地で独立を求めるチラシ タルタン僧院大火災 その他
この数日間、チベット本土からはこれと言った大きなニュースは入らず、ブログもアップしなかった。だからと言って、もちろんチベット人が抵抗を諦めたという訳ではもちろんない。今回はツイッターには載せたがブログにはまだ書いてなかったチベット本土のニュースその他やガンデン・ンガムチュの写真等を紹介する。
まず、本土チベット人の抵抗運動の話。チベット独立を求めるチラシが撒かれたという話が3件入っている。19日付けTibet Express http://p.tl/Ci62によれば、16日、カム、(チベット自治区)ソクゾン(索県)ソクツェンデン僧院に愛国再教育チームが来て僧侶たちに教育資料を沢山手渡した。夕方、その紙の裏に「チベット独立」と書かれた紙が見つかった。今、大勢の役人と警官が僧院に詰めかけ、犯人を捜索中という。
20日ティーチングが終った後ガンデン・ンガムチュということでジェ・ツォンカパを追慕するツォ(供養会)が行われた。この時、加持されたお菓子や果物が多量に参加者に配られる。写真はその特別の加持力を持つバナナにさっそく食らい付くチベットから最近来たおばあさん。
チラシ2件目:18日付けRFAによれば、アムド、ゴロでチベット独立と法王の帰還、チベット人の団結を求める多量のチラシが町の内外で発見され、警備が強化されたという。最近の話というが、詳細は不明。
チラシ3件目:23日付けTibet Express http://p.tl/Boy6 その他によれば、20日(RFAによれば19日)の夜、カム、デゲ(デルゲ)で街中や周辺に多量のチラシが撒かれた。チラシの中には「チベット独立、法王の長寿、法王帰還」を求めると書かれていた。次の日の朝、これに気付いた役人たちが総出でチラシを回収し始めたが、チラシは電柱や壁にも貼付けられており、数も多く、10数人の役人だけでは回収しきれなかったという。今のところ、犯人が見つかったとか、特に警備が強化されたという話は入っていない。
以下、6枚の写真は20日ガンデン・ンガムチュの夜、ダラムサラをひと回りして撮ったもの。ラサに比べダラムサラは平和そのもの。クリスマスのようだった。最初の写真はルンタ・レストラン。
先日、ムスタンに越境したチベット人が中国側に引き渡されたというニュースはお伝えしたが、そのすぐ後で今度はネパール国境を目前にチベット人が中国の国境警備隊に拘束されたという話が入った。18日付けRFA http://p.tl/A91fによれば、13日の夜、チベットから亡命途中のチベット人14人がカイラスの南プラン、ユサルで拘束された。全員カム出身で30~40歳代の男性11人、女性3人という。
21日付けTibet Times http://p.tl/kKKoによれば、当局はアムド、青海湖の辺りを一大国際観光地にするための大々的計画を3年前に発表した。これに伴い、当局は青海湖周辺に住むチベット人に対し、他の場所に移住するよう命令した。しかし、チベット人たちは断じて移住などしないと強硬に反対し続けている。今年も、地区の代表者たちを動かし、何とか強制移住を免れたという。
ダラムサラ・キルティ僧院のイルミネーション。ガンデン・ンガムチュの夜一番派手なのは昔からこの僧院。夜通し読経の声が続く。
これも、まだ計画段階だが、19日付けRFAhttp://p.tl/eegSによれば、カム、カンゼ当局は、地域の建物の内、チベット様式で建てられているものを逐次中国風に建て替える計画を発表した。
そのための集会が開かれつつあると言う。チベット人の反発を招くことは必定。
焼身抗議者等、チベットのために命を捧げた者たちを追悼するために建てられた「勇者の塔」の前にも、もちろん沢山のローソクが灯されていた。
で、この写真を撮った後、不思議な光が写っていることに気付いた。<写真クリック拡大>手前の僧侶の背中に注目してほしい。背中に緑の光がいくつか写っている。まるでこの僧侶の前にあるはずのローソクの光が身体を通過して背中に写り出されている如し!周りには光が反射するようなガラスもないので、とにかく不思議だな~と思う次第。
写真は亡命チベット社会でもっとも有名な歌手の一人、テチュン(phayulより)。今月31日から来月10日までブッダガヤで行われるカーラチャクラ灌頂の間に、彼を中心とした有名チベット人歌手たちが3日間コンサートを開くという。
趣旨は「チベットのために焼身抗議を行った人々を讃え、共感、団結を示すため」。
31日、1日、2日の3日間行われる。参加歌手はテチュンの他、ツェリン・ギュルメ、テンジン・ゲルポ、テンジン・ウーセル、チュダック等。その他チベット本土からの歌手とも交渉中という。カーラチャクラ自体に20万人が参加すると予想されており、コンサートにも相当の人が集まり、相当盛り上がると思われる。
期間中ブッダガヤでは同じく焼身抗議者たちを追悼し、連帯を示すために、各宗派の代表的高僧が一同に会する法要も行われる。
最後に火事のニュース。写真は中国の微博より。亡命側のソースではまだ伝えられていないが、@uralungtaさんが22日に新民網に掲載された記事を翻訳して下さっているので、以下それをコピペさせて頂く。
チベット:ニンマ派名刹大規模火災(12/19)
[訳]
青海ニュースネットによると12月19日早朝4時30分、果洛州久治県(*1)ペユル・タルタン寺院(*2)で大規模な火災が発生し、講堂2棟が全焼、多くの文化財が失われた。幸い死傷者はいなかった。出火原因を調査している。
消防関係者の話では、タルタン寺院火災での焼失面積は800平方メートル以上に及び、僧院の僧侶と駆けつけた近隣住民による懸命の消火活動で午前10時30分には鎮火した。現在、関係者が現場で出火原因の調査と焼失文化財の確認を行っている。
タルタン寺院は久治県白玉郷(チクディルのペユル*1)に位置し、1857年に創建され、総面積は67万平方メートル(1000ムー)以上に及ぶ。これまでに140年の歴史があり、青海、四川、甘粛の省境地区(*3)で最大規模の寺院で、チベット仏教ニンマ派の寺院に非常に広く影響力を持っていた。境内には金銀宝石がちりばめられた高僧のチョルテンが2塔あり、寺院の宝とみなされていた。1994年には州の文化財保護機関に指定されていた。
災害状況発生後、久治県共産党県委員会と県政府はこの件を重要視し、すぐさま担当部署に指示して救援活動を実施。白玉郷共産党委員会、郷政府、県公安局などの関係機関は責任者も一般人も消化隊を組織して、州消防支部と班瑪県(*4)消防本部と連携し、白玉郷に急行して災害復旧活動を展開する。(新民網12月22日掲載)
*1: チベットのアムド、ゴロク地方チクディル
*2: http://www.tarthang.com/Index.htm
*3: アムド東部の草原地域(ゴロク)
*4: ペマ
この写真も微博から。
@uralungtaさんがさらに微博関連ツイを訳す。
「寺ではまず僧侶たちが消火隊をつくり、聞きつけた付近住民も自発的に駆けつけて手伝った。どの消防隊も遠方にあって火災現場には間に合わず、消防車の中の水は零下20~30度にもなるペユルではたちまち凍ってしまった」
写真を見ても分る通り、消火作業は全て付近のチベット人が川からバケツリレーで行ったようだ。
もっとも、火事は夜中に起こったので、消火作業も手遅れだったと思われる。
チベットの田舎に消防車が駆けつける訳もなく、この僧院などニンマ派で最近の抵抗運動に関わっている訳でもなく、居れば少しは役立ったかも知れない軍隊も武装警官もいなかったと言う訳だ。
負傷者が誰もいなかったのは幸いだ。この僧院の長であるタルタン・リンポチェはアメリカ西海岸で相当成功されていると聞く。きっと再建の寄付も割と早く集まると思われる。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)