チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年11月26日
中国人作家 慕容雪村:変革への叫び「怪物を檻に入れよう」
中国の人気作家慕容雪村が11月6日ニューヨークのアジア協会でスピーチを行った。
その中で彼は現代中国の社会、経済、法的システムを批判的に分析し、現体制の下で人々がいかに苦しんでいるかを明らかにした。
「怪物を檻に入れよう: 把怪物关进笼子里 Caging a Monster 」と題されたスピーチの中で彼は中国を「強大な怪物」、政府と社会を「腐ったシステム」と呼び、この怪物を檻に入れるために中国人は立ち上がらねばならないと説く。
全文を以下で読める(中国語/英語)http://p.tl/ZuEj。少々長いが、痛烈・痛快この上なのでできれば全文を読んでもらいたい。以下、適当にかいつまんで紹介する。
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中国に住んでいると「巨大な劇場にいるようだ」と彼は言う。「舞台は馬鹿げており、シナリオは信じがたいものだ。あまりに馬鹿げており、あまりに信じがたく、それはあらゆる作家の想像を遥かに越えている。我が国はメラニン入りの粉ミルクを生産し、魚とエビを避妊剤で太らせる(?)。ワインには工業用アルコールが入れられ、人間の排泄物を豆腐保存剤として使う。レストランの排水溝から出た油を再利用して人に供する」
中国の法的システムには政治が深く関与していると指摘し、「中国の判決は審理が始まるずっと前に決められている」と言う。
「我が国では大勢の無実の人々が消え去り、自由を失う。裁判所で判決を受けることも無く」
拘留中に度々人が死ぬが、このような時中国の役人はとても「創造的」な説明を思いつく。「かくれんぼうをしていて死んだ。夢を見ている間に死んだ。精神病で死んだ。水をちびちび飲んでいる間に死んだ」
「しかし、拘留中に死んだ人々の身体には例外なく全身に痣と傷が残されている」
中国の選挙を「茶番」と呼び、政府は前もって結果を決めていると批難する。
「しばしば、2人の候補者の中から2人を選べと言われる。時には基本的数学を無視した選挙が行われる:2人の候補者の中から3人を選べと言うのだ」
中国のメディアは「政府の宣伝のみで真実をレポートするということはない」と酷評する。教育システムは「政府に忠誠を誓う人材を育てる事が義務とされ、人を無知にし続ける」
「その結果、人々は大人になるまで決して知的成長を達成しない。ある人たちは今も、1960年代はじめの前例を見ない大飢饉は発生しなかったという。そして、何百万人もの餓死者が出たと言うのは作り話だという。……中国では親が誰かが大事だ……普通の市民が出世し、大金持ちになることはほぼ不可能だ。彼らがオバマやスティーブ・ジョブになることはありえない」
貧富の差と歪んだ経済政策を指摘し、「中国は最新鋭の航空機を輸入し、外国を援助することが好きだ。国内には極貧の乞食が徘徊しているというのに」
「我が国は宇宙にサテライトを打ち上げることができる。しかし、川を渡る安全な橋をつくることができない。我が国はパレスのような政府庁舎をつくることができる。しかし、ちゃんとした校舎をつくることができない。我が国は政府職員用に何百万台という豪華な車を用意するが、子供たちに安全なスクールバスを与えることはない」
社会を覆う「抑圧の雰囲気」と信頼の欠如の源は政府の市民に対するスパイ政策にある。政府は全ての市民に対し「秘密の調書」を持っているという。
「雰囲気は暗い。人々は政府を信用しない。被雇用者は雇用主を信用しない。生徒は先生を信用しない。そして、妻は夫を信用しない」
腐敗は至る所に見られ、チュックしないと大変なことになると警告する。「中国の役人は賄賂を送るか、送られるかだ」
「この腐ったシステムを改革しない限り、人類に対し貢献できるイノベーションやアイデアをほとんど提供できない国民のままであり続けることであろう。金は沢山持っていても文化と言えるものはほとんど残っていない。強大な軍事力を持つかもしれないが、それによって人々に安心を感じさせることはできないであろう」
彼は中国人に対し、この政府の不当性を正すために立ち上がることを促す。中国の「腐ったシステム」を「腐った腫瘍」に喩え、これが中国の血と神経細胞を毒している元凶であるという。
「私は最低線というものがあると信じる。今、我々はその最低線上にいる。この腐ったシルテムが維持されているのは、我々が何らかの形でこれに貢献しているからだ。我々がシステムなのだ。システムが改善されるとすれば、それは我々がそのように努力したからだ。もしも、システムがさらに悪くなるとすれば、それは我々がそれに貢献したからだ」
「最後に、信じてほしい、私は階級の敵ではないし、政府転覆を企てる者でもない。ただこの怪物を檻に入れたいだけだ。確かに私は自分の国を批判したが、これは私が国を憎んでいるからではない。それどころか、私は自分の国を愛している。その素晴らしい山々や川、その偉大な文明を愛している。祖国が過去に味わい、今も味わっている苦しみを知っている。実際、その苦しみ故に私は祖国をより愛する。そうだ、私はその腐ったシステムを批判した。しかし祖国が改善されるために血をみるようなことを望んではいない。システムが礼儀正しく改善されることを望む。近い将来、私の国に自由の花が咲き、子供たちが怖れなく微笑むことを望む。近い将来、この古代文明を育んだ、多くの苦しみを経験した大地の上で、繁栄と平和と自由が全ての人々にもたらされることを望む」
参照:23日付けphayulhttp://www.phayul.com/news/article.aspx?id=30408&article=A+Chinese+writer’s+cry+for+change
6日付けNew York Times http://p.tl/qqoZ
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)