チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年10月29日
初めての焼身抗議ビデオ/ンガバ県内の村々で偽ビデオ上映会
9月26日に抗議の焼身自殺を行ったロプサン・クンチョク。火が消された後の映像。女性の悲鳴と祈りの声が聞こえる。武装警官隊は横を歩きながらも助けようとはしていない。最後に「ビデオを撮るな」という中国語とともに終っている。
10月28日付け、ダラムサラ・キルティ僧院リリースには最近のンガバの様子と新たな逮捕者の情報が載せられている。以下、そのチベット語のリリースからまず逮捕者以外の報告の部分を訳す。
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10月20日から一週間ンガバのセー・ゴンパで焼身抗議を行った人々を供養するために観音菩薩の真言を唱える集会が約2万人のチベット人を集めて行われた。この時、警官と武装警官隊がいつもよりさらに大勢動員されゴンパを取り囲んだ。
尼僧の焼身抗議があったマミー尼僧院とその周辺の村には今も大勢の武装警官隊が駐留し、付近は厳戒態勢の中にある。
最近ンガバ県の村々には当局の役人が常住し、抗議の焼身自殺に対し、一般チベット人や政府の下で働くチベット人にこれを非難することを強要している。また、映画を上映している。役人たちは焼身自殺した人たちを強く批判し、それを聞かされるチベット人たちの心を深く傷つけている。
上映される映画の中には3月16日に焼身抗議を行った僧ロプサン・プンツォが死亡する前に撮ったという偽映画もある。その中では記者の一人が僧プンツォに対し「お前に良くしてくれた者はだれか?」と聞く。これに対し彼は「警官と医者が私に良くしてくれた」と答え、さらに「今何を考えているか?」の質問に、彼は「焼身自殺したことを後悔している」と答える。
これを見たものは誰でもすぐに、これは作り物であると分る代物であったという。このようなものを強制的に見せられ、チベット人たちはさらに当局に対する耐え難き怒りの心をかき立てられているという。
また、チベット人たちが以前ラマと慕っていた高僧の中には、当局から強要されたと思われるが、最近焼身抗議を行った勇者たちを非難するものがいるという。それが放送されることもある。そのような話の中では僧プンツォの年齢は本当は20歳なのに16歳と言われ、彼は以前から正気でなかったとか、彼が自身を供養したことは他のチベット人に強制されたのだとかいう事を話す。このように、嘘を信じ込ませようとする当局の企みに惑わされるものもチベット人の中にはいて、団結が弱まる原因となっているともいう。
役人が家々を一軒ずつ訪問し、反中国的活動を決して行ってはいけないとか、「子供がそのようなことをした時には両親がその責任をとることになるぞ」ときつい口調で説いて回っているという。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)