チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年10月22日
チベット的価値観奨励運動
非暴力の誓いを象徴する行為。カム、ゾクチェン僧院で、一般人により差し出されたピストルを破壊する僧侶。(写真はすべてRFAより)
21日付けRFA英語版http://p.tl/o4hfより。
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チベット内の僧院が民族アイデンティティー称揚の中心的役割を担いはじめている。
チベット人たちが中国支配に対する抗議活動を強める中、内地からの報告によれば、東チベットの僧院が宗教に限らず、チベットの民族と文化的価値を促進する努力の中心基地となりつつあるという。
近年、各僧院の年中行事に集まるチベット人の数も格段に増え、時には数万人が集まり、北京の文化的政治的支配に対抗するが如くに、チベットの文化的アイデンティティーを称揚している、とオブザーバーや参加者はいう。
「伝統的にはチベットの宗教的集会は儀式的パーフォーマンスや祈祷が中心であった」と広くこの地域を旅行し続けるある男性は言う。
「今はそうではない」と彼は言う。
「このような集会をよき機会と捉え、多くの教育あるチベット人や知識人が参加し、チベットの文化や伝統に関する討論を行っているのだ」と匿名希望の男性はRFAに話す。
特に、チベット語を話し、書くことが「チベット人が生き残るためにいかに重要か」が強調され、さらに、倫理道徳と非暴力も人気の指導テーマとなっているという。
大集会
10月6~13日にかけ、カンゼチベット族自治州セルシュル僧院には2万人以上の僧侶、一般人が参加し、上記のテーマについて話合われたと参加者の1人は言う。
10月2~5日、同じくカンゼ地区にあるゾクチェン僧院では宗教的長老が1万人以上のチベット人を前に、社会における道徳規範についての話を行った。
「その結果、多くの若いチベット人たちが刀やナイフ等の武器を投げ出し、暴力を振るわないことを誓った」という報告がある。
「多くの者が酒を飲まずギャンブルを行わないという戒を受け、中国語を混ぜず純粋なチベット語を話し、チベットの伝統的衣装を着ることを誓った」。同様の集会は9月と10月の間に少なくとも他の8カ所で行われたという。
集会の際、ナンチェン僧院の本堂に掲げられた法王の写真タンカ。
アムドのナンチェン僧院(カギュ派)にも宗派を問わず付近の30以上の僧院から僧侶・尼僧が1400人ほど集まり、大きな法王の写真を掲げ、環境保全、特に鉱山開発等について話合いが行われた。
「チベットネス(チベット性)」の定義化
「中国による文化的、政治的支配に直面し、チベット人の間に彼らの文化的アイデンティティーを宣言しようとするこの動きは、チベット人たちに『中国的』と言われるものからの差異化を可能にしている」とインディアナ大学チベット学教授のElliott Sperlingは話す。
「チベットネスを定義する行為は、その人に取って『中国的』でないものは何かということを定義する行為となる」とSperlingはいう。
以下略。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)