チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2011年9月28日

「9-10-3(元良心の囚人)の会」20周年記念日

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DSC_6237昨日ダラムサラのドカ(ドラマ・スクール)の広場で「9-10-3(元良心の囚人)の会創立20周年記念式典」が行われた。

我々のルンタ・プロジェクトは9-10-3の会を助けるために作られたようなNGOである。式典にも日本事務所の@uralungtaさん、現在某国で他のNGOのために働いている高橋明美さん、それに私が招待されていた。出席できたのは私だけだが。

9-10-3の会は1987~88年に掛けてラサで中国支配に抗議する大規模なデモを先導した僧侶たちにより1991年9月27日に創立された。9-10-3とはそれぞれデモが行われた月を並べ会の名称としたものだ。


DSC_614887~89年のデモ。

つまり87年9月27日、デブン僧院僧侶が先導した文革以後中国で最初の大規模なデモ、同年10月1日、ガンデン僧院僧侶が先導したデモ、翌88年3月10日にセラ僧院僧侶たちが先導したデモである。先導した僧侶たちは逮捕され獄に入れられた。刑期を終えインドに亡命した僧侶たちが残された仲間たちを助けるため、チベットの現状を外の世界に伝えるため、亡命先で生活を助け合うために作ったのが9-10-3の会だ。

私が彼らと出会った90年代終わりには、会と言えど事務所もない状態だった。幸い日本から彼らを助けるための少なからぬ寄付金を得て、80人収容のルンタハウスを建てる事ができた。その中には事務所、裁縫アトリエ、図書館、ルンタレストランなどもある。今ではこの亡命社会で5大政府外NGOとして認定される立派な団体となっている。

今は主に、内地情報を伝え、政治犯の解放運動を行う傍ら、2008年以降益々増え続ける亡命してきた元政治犯の生活や教育の面倒を見ている。

DSC_6257式典で前首相サムドン・リンポチェから表彰品を上受け取るアメリカから参加した元会長のイシェ・トクデン(クショ・カド<もうクショラじゃなくなったが)。彼の代の執行部(全員僧侶)と意気投合し彼らを助けようと決心した。

副会長のルカル・ジャンは昨日のスピーチの中で「チベットの政治犯とは?」という話をしている。この箇所を以下に訳してみる。

チベットの政治犯とはどんな人のことを言うのか?

「チベットが中国に侵略された後、広い意味ではチベットの環境全てとそこに住むチベット人全てが政治犯と言える状態である。狭い意味においては何らかの政治的罪を着せられ刑務所に送られた個人のことである。もっとも今ではどのような行為が政治的と言われるか特定できない状況となっている。

例えば、仏法を正しく守るラマであるだけで政治犯となり得る。トゥルク・テンジン・デレック・リンポチェがその例だ。彼は無期懲役の刑を受けた。人を助け、尊敬されるべき成功した商人となれば、これも政治犯となりうる。ヤク・ホテルの経営者ドルジェ・タシがその例だ。彼もまた無期懲役である。地元の環境を守ろうとする者も政治犯となりうる。カルマ・サンドゥップがその例だ。彼は15年の刑を受けた。僧院を運営することに長けた僧侶も政治犯となりうる。ラプラン僧院僧侶ジグメ・ゴリがそうだ。彼は2008年以降4回拘束され、現在行方不明となっている。

DSC_6181政治犯が主に収監されるラサの刑務所。上からウティトゥ刑務所、ティサム刑務所、グツァ刑務所、タプチ刑務所。

本を書いて政治犯となった者はたくさんいる。例えば、ドンマ・キャップ、ノルジン・ワンモ、ショクドゥン、クンガ・ツァンヤン、テウランたちである。ドンマ・キャップには10年、ノルジン・ワンモには5年の刑が言い渡された。歌を歌っても政治犯だ、例えばタシ・ラプテン、タシ・ドゥンドゥップたちだ。人々の意見を記録しても政治犯となる。ドゥンドゥップ・ワンチェンがその例だ。彼は6年の刑を受けた。こうして2008年以降60人以上の作家、芸術家が逮捕された。

今では学生がカカカンガ(チベット語)を習っただけでも政治犯となり得る。茶店やチャン屋で政治的な話をしただけでも、もちろん政治犯となり得る。僧侶が僧院でお経を読むだけで政治犯となる。僧侶を辞めれば報奨金が出るぐらいである。このように、チベット人はどこにいても大っぴらに頭を上げて暮らす事ができる場所は一つもないほどである。今、たった一カ所だけ政治犯にならない場所がある。ナンマ(ステージショウを行う飲み屋)で金を浪費しその場限りの楽しみを享受している者は政治犯とされない。もっともここもその内どうなるか分らないが」

DSC_6335昨夜、9-10-3のメンバーによる劇が演じられた。

以下、写真と共にそのストーリーを紹介する。

DSC_6339最初仲間3人がチベットの窮状についての話をした後、「明日、街でデモをするしかない」と決心する。

DSC_63693人が「チベットに自由を!ダライ・ラマ法王に長寿を!」等のスローガンを叫びながらデモを始める。何人かがこれに加わる。

DSC_6372警官が駆けつけ、めった打ちにされた後、気絶した僧侶以外は逮捕され連れ去られる。

DSC_6392気絶していた僧侶は意識が戻ると再び立ち上がり、チベット国旗を降りながらスローガンを叫ぶ。

DSC_6398僧侶再び殴り倒され、逮捕される。

DSC_6409拘置所で尋問と拷問を受ける僧侶。

DSC_6417僧侶、尋問中殴り倒される。

DSC_6434デモに参加した者たちが一方的な裁判に掛けられ、刑期を言い渡される。

DSC_6476獄中にいる娘に食べ物等を持って来た母親も、短い涙の面会の後、強引に引き離される。

DSC_6485刑務所内で号令に従い、右や左を向いたり、走らされたりする政治犯たち。

DSC_6492動作が遅れたと殴り倒される囚人。

DSC_6505鉄の手枷、足枷を嵌められた政治犯。
(実際何ヶ月もこうして過ごさせられる政治犯がいる。皮がはがれ、肉が裂け、骨が見えたと証言する者もいる)

DSC_6531刑期を終えた政治犯たち。一人は刑務所内で痛めつけられた後遺症で重い病に陥っている。もう一人は解放された後にも、仕事につく度に職場に公安がやって来て雇い主に元政治犯を雇ってはならぬと警告し、仕事を首になる。自分で路上で店を開いたが、これも邪魔された。生活できないから、インドに亡命する決心をしたといって最後の別れを言いに仲間の所に来た。仲間は自分はもう長くはないと思うが、無事インドに着いたらこれを法王に渡してくれと、手紙を託す。

DSC_6537病気の仲間は妹に看取られ亡くなる。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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