チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年6月22日
続TCV創立記念日(2008年)
法王はこの日「中国との対話」について重要な発言をされた。
「私は長らく中国に対し心から中道路線を貫き努力してきた。しかしこれに対し、今まで中国が肯定的な反応を示したことはない」と語り。
「個人的にはもう(この路線を)諦めている」とそっけなく言われた。
続けて、
「チベットの問題はチベット人600万人の問題だ。私だけの問題ではない。だから、私は政府に対し、真の民主主義を示すためにも、将来の行動計画を決定するために広く多くのチベット人を集めて話合うことを提案したのだ」と話された。
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今月終わりに「中国との第8回会談」が予定されている。
しかし、まだ実際に行われるかどうかはっきりしていないようだ。
その時期にこのような発言をされたのは、、、、
本当にもう「相手にされないのならもう会っても仕方ない」と諦められたのか?
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他、学生に対し、「チベットが生き残ることは、チベット人だけでなく世界の人々のためになるのだ。愛と慈悲を中心とするこの文化は世界に貢献できる。だから生き残らないといけない。と、このように思えるようにならないといけない。中国のように物質的繁栄ばかり求めて、その中で人々の心はどうなって行くのか?本当の幸せは決してやってこない。心の教えは彼らにも必ず役に立つ」
「我々の戦いは真理の裏付け、支えがある。だからその行動には正しい理があり、従って勇気をもって行える。これに対し、中国のように嘘つき者の行動には理が無い、従って勇気もない」
「非暴力の戦いには知がいる。仏教的知識だけではなく、特に世俗の知識が必要だ。心だけでは戦えない」
等々語られた。
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ところで、昨日はTCVまでバイクの後ろに14歳のツェリン・ノルブを乗せて行った。
ツェリン・ノルブは数か月前のNHKで放映された、「ヒマラヤを越える子供たち」の中でフィーチャーされていた子供だ。スジャスクールから許されて法王を見るためにダラムサラに来た。今年の冬に亡命してきたばかりの彼。まだまだ全くの遊牧民の子供だ。でも勉強は頑張っているようだ。今までの試験の用紙を私に見せながら、「最初の試験でクラスで二番、この前のは一番だったよ。もうすぐ最後の試験がある」と顔を紅潮させて話す。
「この前両親と電話で話ができた。二人とも元気だった。今はまたラサを引き払ってナクチュの田舎に帰ったという。自分が子供のころデブンで僧をしていた時、世話になったおじさん(28歳位)が逮捕された。今どこにいるかわからないという。噂で、もう殺されたと言われたこともあったらしい。それで彼のお父さんは心痛で死んでしまったと聞いた。自分もとても心配だ」と、いう。
私は「確かに三大寺の僧侶は1000人ぐらい捕まり、700人ほど解放された。まだ、帰っていないとしたらアムドにいる可能性が高い。でもまだ誰かが殺されたという話は聞いてない。だから大丈夫だもうすぐ帰ってくるよ」となだめた。
夕食のとき、兄弟の話になった。
「本当はもう一人下に女の子が生まれていたけど小さいとき死んだよ」
「病院とか近くに無いのかな?」
「田舎の家から医者がいるとこまでは馬で二時間走らないといけない。1人の医者がいろんなとこに往診に行くから、見つけるのは大変なんだ」
「医者はチベット人なの?中国人なの?」
「チベット人だよ」
「いい人かい?」
「とてもいい人だよ。でも薬はたくさんもってない。いろんなところに呼ばれていつも馬で走って行く」
「手術とかすることもあるの?」
「簡単なのはするけど。大変なのは大きな町に送るよ」
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田舎の草原を馬で駆けながら、患者を助けるために働いているチベット人医師がいるのだ。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)