チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2011年5月29日

大津波を見事に乗り越えたコミュニティーとそのリーダーの話

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securedownload2 確かな信頼により繋がったコミュニティーと良いリーダーがいる事はチベットの例を出さずともとても大事なこと。先の大津波の後これを見事に証明した村があった。そこは長洞(ナガホラ)という58世帯、200人余りの集落。

 5月上旬この村に1人のカメラマンが入り、短いが、素晴らしい報告を送ってくださった。
カメラマンとは津村さんという岩佐監督の下で「チベットの少年」という映画を作っている仲間である。

以下彼がメールで送ってくれたその現地報告。
写真は何れも津村さんが撮影した長洞地区の写真。

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 先週の4~6日、3度目の取材で岩手県の南部、陸前高田へ行ってきました。
人口2万6千余の町は約8割が壊滅し、現在はメインの道路だけが復旧しましたが(瓦礫を退けただけ)、人影は街中には殆どなく自衛隊の車両やトラックが行き来をしているだけでした。見渡す限りの瓦礫の山ですが、市庁舎、病院、博物館、大きなスーパーなどいくつかの建物は辛うじて外観だけが残っている状態です。6階建てのマンションが2棟ありましたが、その6階の窓まで津波が到達しているのには驚きました。


 今回初めて周辺の避難所を回りました。小・中学校、公民館、集会所、スポーツセンター、老人ホーム、そして何と火葬場までにもまだまだ沢山の被災者たちが生活をしています。ボランティアの若者も連休とあってかなり来ているようでした。小学校のステージで歌う東京から来たという男女、整体師のグループ、お年寄りの話を聞く?という女学生、踊りと太鼓の高校生、そして有名芸能人、外では瓦礫や泥を運び出したり、田や果樹園の整備などかなり沢山の人たちが泥まみれで働いていました。仮設住宅の建設も少しずつ進んでいて、抽選に当たって一安心の人、まだ未定で今月末には避難所も出なくてはならない人など悲喜様々です。今は支援物資のお陰で食べることには困らないけれど、この先どこでどんな形で自分たちの新たな生活が始まるのか、まだまだ見えないという不安を抱えているという中途半端な状態だと思いました。

securedownload3 ここから本題です。
町から10キロ位離れた広田半島に長洞(ナガホラ)という58世帯、200人余りの集落があります。NHKでも取材が入っているのでご存知の方もいると思いますが…
ここは津波が半島の左右両側から襲い、一週間ほど完全に孤立してしまいました。死者は集落の外で1名。28世帯の海に近い家が全壊しました。

 ライフラインの一切が絶たれてしまった状態に陥った時にまずリーダー(55才の学校の事務職、奥さんは中学教師,彼の家、そして隣の息子さんの家も骨組みだけでほぼ全壊)が考え、実行したこと
①集落に残された食料(米)の全量の確認
②医者の薬を必要としている人の状況確認
③学校に行けない(避難所になっていた)約30人いる子供たちのための学習会(つまり寺子屋)開設。
先生は親、そして年上の中・高校生。名称は「元気学校」…何より音楽や絵の先生が欲しかったそうです、くうくうさん(映画制作の仲間)のような。

 被災を免れた人たちが持ち寄った米は全部で700kg、まずはこれで全員が一ヶ月間、外部援助が無い状態を凌ぐには一人一日一合は食べられる、最低限生きていけると判断しました。必要な薬は瓦礫の山を越えて若者が確保に走ったそうです。新たに自治会組織を作り、4つの部(食料・医療・連絡調整・防犯)を作り、それぞれの役割分担を明確にしました。そして被災し、家に住めなくなった28世帯の家族は一人として集落の外の避難所には行かず、近隣の知縁者の家で生活することにしました。

 私たちがお邪魔した家は3家族、0才から87才まで11人が共同生活をしていました。私達のために支援物資で作った美味しい夕食も作ってくれました。一人一人は皆大変な状況なのに、明るくて優しくて、とても素敵な人たちでした。58世帯、200人のコミュニティーが空中分解しないように、普段からのつながりと組織力を活用しながら独自のアイデアで復興を図っている長洞集落。

securedownload仮説住宅が建つ場所
 仮設住宅建設も僅かしかない高台の平地(使っていない畑)を地権者が無償で提供し、一箇所にまとめて建てることで集落全員が一人として離れることなく、安心して復興を目指すと力強く語ってくれました。

 リーダーの賢さと力強さに脱帽!!
生活の多様化によって本来の共同体としてのつながりが薄れ、形骸化しているこの国で、この甚大な被災を機に、皆がそれぞれ持てる力を出し合って互いに労わりつつ生きようとしている東北人の気骨を見せてもらいました。

 別れの時、何年か経ってここが普通の生活を取り戻したら是非来てくださいと言われました。それは是非!

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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