チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2011年1月30日

カルマパ17世の部屋から大金押収の件

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カルマパこれを事件と呼ぶべきかどうか、迷うところだが、日本の新聞等でも報道されているし、先ほどこの件に関するカルマパ側の記者会見というものも開かれ、それを聞いて来たので以下、報告することにする。

記者会見にはインドメディアが大勢押し掛けていた。インドの新聞、テレビではこれを大事件の如く報道している。特に、「カルマパは中国のスパイか?」何てスキャンダラスな報道が行われている。これを真に受けて日本の産経と読売もスパイ説を報じている。
日本の報道:産経http://sankei.jp.msn.com/world/news/110129/asi11012922590005-n1.htm
読売http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110129-OYT1T00543.htm
朝日http://www.asahi.com/international/update/0129/TKY201101290245.html

事の発端は先の水曜日にダラムサラから3時間ほど南に下った、ヒマチャル・プラデッシュ州の州境にあるウナという町で現金約2000万円を車の中に持っていたインド人2人が見つかったことから。
そのインド人たちは金の出所をカルマパだ、と言ったらしい、それで次の日カルマパの仮の住まいとなっているダラムサラのギュトゥ僧院に警察官が押し掛け、カルマパの部屋から多量の現金を見つけ押収した。その総額はメディアにより様々だが、今日の記者会見では日本円にして約1億3千万円ほどだったという。そのほとんどはUS$はじめ外国の通貨。
何で金を押収されたかというとインドでは外国の通貨をある程度以上保持しているとそれだけで違法なのだ。米ドル以外にユーロ、日本円、中国元など25カ国の通貨が見つかったという。

スパイ説の始まりはこの中国元であった。その額についてはこれもメディアによりまちまちなのだが、今日の記者会見では総額の約10%というから1300万円ほど。カルマパ側の説明ではこれらは「全て布施」であるとするが、インドのメディアなどはこれがスパイ資金ではないか?という。スパイ説の始まりはインドの外部情報調査局(RAW)の誰かが、「カルマパは中国のスパイかも知れない」と言ったらしいことに始まる。今日RAWの職員がダラムサラに来てカルマパにこの事に関し、聴取を行うと報道されている。

このカルマパ・スパイ説の話がインドのテレビ等http://www.youtube.com/watch?v=sRWOXb0LIxMで報道されるや、亡命チベット人たちは一斉にメディアに対し抗議した。「カルマパの名を汚すとんでもない話だ」というわけだ。

この件に関しダライ・ラマ法王はバンガロールでテレビのインタビューに答え「カルマパは世界中に信者をもっており、彼らから外国通貨の布施を貰う事はあるだろう。中には中国本土の信者もいる。中国元が布施されても不思議ではない。確かにもっと法律を知って、基金等を創設し、正しい管理を心掛けるべきだったと思う。しかし、私はカルマパのことを100%信頼しており、中国のスパイだという話は全く信じられない。私が保障してもいい」とまでおっしゃった。

この「カルマパは中国のスパイかも知れない」と言う話、実は今に始まったことではない、インドの情報局はかねてからそのような疑いを持っていたようなのだ。今回もそうだが、これに何らかの具体的証拠がある訳ではない。この辺のチベットメディアは、「これにはもう1人のカルマパであるシャマール・リンポチェの選出したカルマパ17世タゲ・ドルジェが関わっている」という。
シャマール・リンポチェはダラムサラにいるシトゥ・リンポチェが選び、法王が承認したウゲン・ドルジェに対抗するため、盛んにインド政府やメディアにロビングしているとされる。もう1人のカルマパについては以下のyoutube等参照:http://www.youtube.com/watch?v=Y4iRGSrCgRM&feature=related

30.1.2011ギュトゥの記者会見で、今日の記者会見では、様々な嫌疑に対し、説明が行われた。
説明はカルマパ側の弁護士ナレッシュ・マトゥラ氏とカルマパ基金顧問のカルマ・トプテン氏が行った。

まず、最初にウナで車の中から見つかった2000万について:「これは土地代金としてデリーで売り主の代理人に支払われた金であり、領収書もある。それを彼らがダラムサラに移送する途中の金である。故に、すでに我々の金ではなかった」

「土地を購入する事はカルマパ基金として申請してあり、違法ではない」

「外国の現金を保持していたことについては、基金として外国通貨を保持する許可を何年も前に申請しているが、未だもって審理中のままだ。
今回は特に先のブッダガヤで行われた、大きな法要に際し、チベット本土から来たチベット人や中国人を含む外国人から多くの布施を頂いた。この布施は一般に封筒に入れられカタとともに差し出されるもので、いちいちその場で開けてどこの通貨とか調べるわけではない。後で会計が開けて分るだけだ。外国通貨保持に問題があると分っていたから予てより正式に申請していたのだ」と言う話だった。

この話を聞く限り、もちろん申請中であり、まだ正式の許可が下りていないといえば違法であるが、努力はしており、悪意は無く、許可を出さないインド政府が悪いだけだ、なんてチベット側は思うわけだ。インドのメディアはどう受け取ったか分らないが、チベットメディア側は全員「なんも悪くないんじゃん」という結論に至ったようだった。

30.1.2011ギュトゥの記者会見最後に「現在まだ、警察の捜査が進行中であり、我々はインド警察を信じ全面的に協力している。早急に全ての疑いが晴れることを待つだけだ」とコメントされた。

ま、常識的に考えて見て、中国がインドにスパイを送るとして、わざわざカルマパのような目立つ人物を送るであろうか?チベットを脱出したとき、彼は16(←14訂正)歳だった。16歳のスパイというのも不思議だ。また、そんなはした金をスパイ活動資金としてカルマパが必要な分けも無いし、現金で手渡すはずも無い。
インドの情報局は何考えてんだか?だし、またそれを真に受けて非常識と思わず日本語の記事にまでする記者も、あまりにカルマパとチベット社会を知らな過ぎる。

カルマパは命がけの亡命以来、法王からの父の如し愛情と信頼を受け、また台湾中心に世界中に信者が増えつつある。
一方、亡命以来、他の派の僧院に厄介になり続け、自分の僧院に住む事ができないままだ。自分の僧院を持ちたいという切実な願いの下に集まった布施を使って土地を購入しようとしている。

インド政府は亡命以来カルマパの監視を続けており、外国への渡航も一度しか許可していない。亡命先でも本当の自由を得る事ができないでいる。その上今度は選りによって「中国のスパイ」と疑われるとは!

カルマパの心中如何に?

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以下、昨日発表されたカルマパ側のプレスリリースを英文のまま掲載する。

2011-01-29, Sidhbari, HP

Spokesperson

We would like to categorically state that the allegations being levelled against the Karmapa and his administration are grossly speculative and without foundation in the truth. Everyone who knows the history of our lineage, our struggle and His Holiness’ life is very surprised by the allegations.

We categorically deny having any link whatsoever with any arm of the Chinese Government whatsoever. The Karmapa has a deep affection for the people of this great country of India where he has been practicing his faith for years. We have had a long and positive working relationship with the democratic Government of India that has always demonstrated great tolerance of cultural _expression and diverse beliefs.

We have followers in a large number of countries who have placed their trust and faith in us and, through their individual donations, enable the sect to undertake substantial programmes of public service that have benefitted many thousands in India and abroad.

Monasteries across the world receive offerings from devotees in various forms – there is nothing surprising, new or irregular in this. A representative of HH the Dalai Lama’s office underlined this yesterday. The cash in question under the current investigation by the police is offerings received for charitable purposes from local and international disciples from many different countries wishing to support His Holiness’ various charitable activities. Any suggestion that these offerings were to be used for illegal purposes in libellous.

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追記:忘れてたこと。
記者会見の後、亡命者社会政府外5団体は連署で「メディアが全く根拠なく、カルマパが中国政府と関係している、という報道をする事を非難する」という声明を発表した。

phayulの関連記事は以下
http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=29014&article=Karmapa+Office+refutes+%E2%80%9Cspeculative+allegations%E2%80%9D

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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