チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2010年6月25日

カルマ・サンドゥップ氏、懲役15年について

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b71403ac.jpgたった三日間の裁判により、カルマ・サンドゥップ氏に懲役15年、5年の政治的権利剥奪、1万元の罰金という判決が下された。

中国政府は最近「拷問により強制された自白は無効とする」と宣言したばかりだ。
これは、もちろん中国で拷問による自白が日常茶飯事として行なわれていることを、少しは政府が認めたということでもある。

カルマ氏の弁護士、浦志強氏によれば、今回の裁判には様々な不正が認められたという。
裁判中に、弁護人側から提出されたカルマの無実を証明する書類が取り上げられず、被告も弁護人も知らない誰かが、法廷でカルマ氏に不利な証言をし、さらに、起訴状を精査し反論する時間も与えられなかったという。
起訴状は中国語からチベット語に翻訳されたが、そのチベット語はカルマ氏がはっきり理解できない地方の方言だったともいう。
浦志強氏はさらに、今回の担当検察官Kuang Ying女史に対して、その正当性に疑問を投げかけている。
彼女は地区の検察官ではなく、今回のケースを担当するために特別、新疆ウイグル自治区検察官事務所から派遣されたが、これは規定に反することだと言う。

浦志強は今年1月に被告のカルマ氏との面会が許可されたのち、6カ月間面会が許可さず、2度目に会えたのは裁判の前日だった。
それも、監視付きで30分のみだった。

彼への罪状は「古墳盗掘」だ。12年前の話である。
「古墳盗掘」と聞くと、なんだかカルマ氏が「自分でシルクロードの古墳を暴いて、ひと儲けした」なんて、イメージが湧くが、話はそうではない。
浦志強氏によれば、1998年カルマはウルムチのある骨董屋から、後で問題となる絨毯、木彫り、その他を購入した。
しかし、カルマ氏はその時、それらの骨董品が古墳から盗掘されたものだとは知らなかったという。

この件では1998年にカルマを含む5,6人が検察側から訴えられたという。
しかし、同じ焉耆回族(バルスク・カザフ)自治県イエンチーの高級人民法院はこの件に関し、カルマの無罪を決定している。
他の何人かは有罪とされた。
この時、高級法院で無罪となった、同じケースが今度は中級法院で有罪とはどういうことなのか?
この時、有罪とされた他の者たちの刑期はどれほどだったのか?
疑問点は多々ある。
今回も裁判官はカルマ氏の拷問についての証言を、まったく審議の対象としなかったという。

彼が逮捕された時期が、同じく冤罪で囚われている2人の兄弟を救出しようと動き始めた時期と重なることからみて、彼は当局に逆らうものとして、はめられたと見るのが普通だろう。
死ぬまで獄に閉じ込め、全財産を没収するつもりらしい。

カルマ氏の妻ドルカ・ツォは「これは裁判と呼べるものではなかった、初めから決まっている判決に向かってただ急いで進められただけだった」
「夫に会い話しをしたかった、会って一言言いたかった。私たちのことは心配しなくていい、親戚の全員あなたのことを誇りに思っている、と。しかし、話かけることは一度も許されなかった」と語る。

彼女は10歳と8歳の2人の娘にまだ、「お父さんが捕まえられている」ということを知らせることができず、「お父さんは外国に行っている」とうそをついたままだという。

上告は10日以内に行なわねばならないことになっている。
法廷でカルマ氏は罪状を否認した。
妻と弁護士は必ず上告するという。

明日は国連によって定められた「拷問の犠牲者を支援する国際デーInternational Day in Support of Victims of Torture」だ。
カルマ氏は、昨日載せたウーセルさんのブログの中で報告された拷問以外にも、自白強要のため「真冬に凍る水の中に長時間浸けられた」とも証言している。
私はこれまでに、この「真冬に水の中に長時間立たせる」という拷問に遭ったというチベット人の話を直接沢山聞いてきた。

嘗て中国の公安部に勤め、今は亡命チベット政府の情報省で働くあるチベット人は「拷問技術100選」というレポートを私に手渡した。
中々訳す気になれないレポートだ。

中国は間違いなく拷問大国だ。
そして、浦志強が言うように中国には「法律の上に指導者がいる」。
法治国家ではないのだ。

参照:
http://www.nytimes.com/2010/06/25/world/asia/25tibet.html

http://www.rfa.org/english/news/tibet/sentenced-06242010103713.html

http://phayul.com/news/article.aspx?

http://woeser.middle-way.net/ id=27586&article=Tibetan+activist+sentenced+to+15+years+in+prison

ちなみに、明日は、チベットに大昔からある「地球環境デー(ザムリン・チサン)」でもあり、ギャワ・カルマパのお誕生日でもあるそうだ。

最後になったが、このカルマ・サンドゥップ氏の解放キャンペーンをSFTが行っている。
以下がオンライン署名サイト。
http://actionnetwork.org/campaign/karmasamdrup
署名、よろしくお願いします。

追記:チベットはおそらく世界でもっとも古くから、「地球環境デー(ザムリン・チサン)」を定めた国だ。
この日、チベット人たちは、その地方ごとに聖山と定められる山に新しいタルチョをもって登る。頂上で「地球(宇宙)上に住むすべての有情の幸せと、その環境の保全を祈り」香を焚き、ルンタを空に撒き、タルチョを取り換える。
ラサではこの日、デブン僧院の裏山に多くのチベット人が泊りがけで登ると言う。

BBCからカルマ・サンドゥップのニュースをはじめ、最近のチベット人知識人弾圧に関する、多くのインタビューを含む、かなり詳しいレポートが出された。
英語が聞ける人はどうぞ。
http://www.bbc.co.uk/iplayer/console/b00sr3rc
このうち16分~22分。

カルマ・サンドゥップ氏は環境活動家としても有名だった。
拷問も受けた。
ウルムチ事件(7月5日)一周年が近いこともこの厳罰に関係があるのか?
これは、すべての記念日への中国当局のたちの悪い揶揄、当てつけか?

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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