チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2010年6月22日

いつまでも遠い島国、日本を眺めつつ

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善光寺 20.6.201020日、長野の善光寺で行なわれた法王の法話の主題はどうやら、密教やクリヤーライトではなく、(いつもの)「良き心」についてだったようだ。
英語では題が「Positive Clear Light」と書かれていたので、自分で勝手に誤解していたらしい。
それでも、ひょっとして「仏性」の話はされたのかな?それとも善光寺に引っかけた、ちょっとした洒落だったのか?きっとそうに違いないが、それにしても英語圏の人たちは誤解したまま、「法王は長野でクリアーライトについて説かれた」なんて言ってるかも?
日本の各新聞社は「相互理解の大切さ」(中日)とか「幸せの鍵は愛と慈悲の心」(信毎)とか説かれたと短く伝えている。

とにかく、日本では詳しいレポート御法度の雰囲気があり、外部には中々詳しい内容は伝わりにくいようだ。
これは、解放的ティーチングを目指す、インドやアメリカなどとは異なる点だ。

20.6.2010 法王日本訪問ダラムサラでは今回の法王の日本訪問に合わせ、亡命政府TVでは、2008年の日本訪問を1時間物にまとめたドキュメンタリーが何度か流されている。
これを見ていて幾つか気付いたことがある。
まず、その服装である。
この年には二か所で高校生を前にした講演をされていたようだ。
みんな黒い制服を着ていた。
黒い僧衣のお坊さんも常に目立った。
それに黒っぽいスーツの紳士たち。
見た人は「日本って制服の国なんだ。それも黒い服ばかりだな、、、」と思ったに違いな。大げさに言えば北朝鮮のようだった。
日本人はよほど黒が好きらしい。それも直線強調の制服ばかりで硬いイメージが残る。

法王は案外日本でも法話以外は英語で講演されているということも分かった。
法王は、つたない英語でも直接聞いて感じてほしいと思い、そうされているのだろう。
しかし、それを聞いてる日本人たちが映し出されると、何だかみんな上の空で、初めから聞いてないことが明らかだ。
眠りこける僧侶や、ふざけ合ってる高校生も映し出される。
「日本人は制服着て礼儀正しそうに見えるが案外話しは聞いてないようだ」なんて誤解?するチベット人もいるかもしれない。

2010年6月 法王日本訪問この「英語を解さない日本人」という話は今回、長野で法王が直接話題にされたようだ。
「この中で私の英語が解る人は手を上げて見て下さい」と法王。
何人か、きっと韓国人とか、台湾人が手を上げただろう。
恥ずかしそうに手を上げた日本人も、何人かはいらっしゃったであろう。

そこで法王「ふうん、少ないな、、、」

「日本人はもっと英語を勉強して、せまい国内にとどまらず活躍の場所を広げるとよい。
私の英語はブロークンでも世界中どこでも直接コミュニケーションができることの利点はとても大きい」
とか話されたと聞く。

その他「日本は技術的に進んだ国だが、若者が過剰なストレスと孤独感に悩んでいる。
自殺者が増えているとも聞いている」
とか「世界の共通語である英語を学んで、アフリカやラテンアメリカなど外の世界に飛び出して貢献してほしい」
と言った発言をされたようだが、
これと同じ話しを2008年にもされている。

法王の日本での様々な発言から、法王の「日本、日本政府、日本人」に関する認識を想像してみた。
まず日本については「経済的に発展し、物質文明社会の典型。外にものは溢れているが、案外、心は貧しく、心に悩みを持つ人が多い国」と思われているらしい。もっともこれはアメリカとかも同じようなものだろう、どこに行かれても「幸せは物質的豊かさのみによって達成されるものではない。心を豊かにして初めて幸福になれる」と説かれている。
しかし、日本ではこの発言が特に目立つ。

政府については「中国を怖がっているというか、歴史的問題の上に経済的・文化的依存関係も強いので、ま、こんなものだろう。あんまり政府を困らせたくないし、、、」
「それにしても、もう50年前から14回も来ているのに、何も変わらないとは、ちと寂しいか、、、」なんて思われてるかどうか?

日本人については「みんな礼儀正しく、行儀がいい。でも、ちょっとまじめ過ぎて、時に面白くない。ジョークを言わない。空の話になるとみんな眠そうになる。これはチベット人に似ていて、西洋人とは違う。僧侶たちは一般に一緒に写真を撮ったり、儀式をすることが好きで、仏教を勉強することにはあまり興味がない。一般に政治に興味がなく、人権とかには特に興味がないようだ。
英語ができない。そのせいか、世界のことを案外よくしらない。自殺者が多い」
なんて、勝手な想像ばかりのようだが、半分以上は法王がいつか、どこかでおっしゃったことである。
もちろん、ポジティブな感想も多々あろうかと思われるが、ここではそれは省いた。思いつかないからかな、、、、

実際、亡命後法王を初めて外国に招待したのも日本だし、すでに14回の御訪問で、同じ東洋人である仏教国日本に対する親しみは相当深まっておられることであろう。
最近は毎年訪問されている。訪問の度に、のべ数万人の日本人が法王の講演会に参加している。

だのに、日本人のチベット問題に対する認識や支援の現状は、他国に比べお粗末この上ない状態が続いている。
チベットのデモに参加する人の数はたったの数百人。最近世界的キャンペーンが行なわれている、テンジン・デレック・リンポチェ解放要請署名運動についても、世界ですでに4万人の署名が集まったと言うが、きっと日本の貢献度は多くとも0.5%ほどにしかなっていないと思う。
もっともこの状況は宗教面でも同様で、これほどいつまでたってもチベット仏教が広まらない先進国も珍しいほどだ。

サポーターや宗教面ではお隣の韓国とどっこい、台湾はずっと先を行っている。
韓国には一度も法王は訪問できず。台湾にも数回行かれただけだ。

これには、いろんな要因が考えられるが、大多数の「日本人は英語ができない」ということが、
大きなハンディーになっていると私も考える。

最近の若い人は英語より、中国語を習う人が多くなってると聞くが、、、

RFAなどでは、良いことも伝えている。
「ケグド地震の犠牲者への慰霊祭が行なわれた」ことと
「登山家として世界的に有名な野口健氏がSFTJ主宰のイベントで“人権に国境はない”と発言した。彼は中国の嫌がらせに負けない数少ない日本人だ」というニュースは内地のチベット人を喜ばせたことであろう。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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