チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2010年4月22日

すべては党のために

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被災地今回の写真はすべてウーセルさんのブログから。

法王の被災地訪問について、NHKによれば:

 中国外務省の姜瑜報道官は、定例記者会見で「被災地ではすでに救援のための人手は足りており、地元の宗教や習慣も十分尊重されている。被災者の心を慰める活動もきちんと行われている」と述べ、受け入れる考えはないことを明らかにしました。

という。
もっとも、中国政府もはっきりと拒否したわけではない。
それはさずがにまずいと知っているからだ。

「被害者の心を慰める活動もきちんと行われている」と言うところが、笑える。
胡錦濤主席がジェクンドを訪れた日には朝から葬儀後の大きなモンラム(祈祷会)が大勢の僧侶、遺族を集めて行われていた。
胡錦濤氏はこれを完全に無視した。

被災地のダライ・ラマ法王葬儀の場には誰も赴かない。(これで、どうやって犠牲者数を集計するのか?)

人々の心を支えている僧侶たちを追いだし、人々が観音菩薩と崇めるダライ・ラマ法王の訪問をお断りする。

偽パンチェン・ラマに寄付とモンラムをさせる。

これらが、被災者の心を慰める活動と中国では呼ばれる。

ある現地の人の話では、温家宝首相がジェクンドを訪問したとき、首相があるチベット人に対し「何でもいい、すべて、私はあなたの望みを叶えてあげます」と言ったのに答え「私たちみんなの願いは一つだけだ。ダライ・ラマ法王にお会いできるようにしてほしい」とその人はっきり言ったという。

首相がこれに対し如何に反応したのかは伝わっていない。

ーーー

被災地4月20日にThe Asia Sentinelというウエブに発表された、中国で著名な評論家であるという、Willy Lam氏のレポートによれば、

http://www.asiasentinel.com/index.php?option=com_content&task=view&id=2411&Itemid=171

政府指導者たちの最大の関心事は「玉樹とその周辺の地域における政治的後退を避けることにある」という。

同レポートによれば、「国営放送は、地震の後、現場で救助活動を率先して行っている僧侶たちの活動を控えて放送するよう命令された」

その代わり「地震発生の次の日に各新聞社やウエブニュースは、報道は<肯定的進展>にフォーカスしたものでなければならず、特に、軍人、警官、武装警官、消防団員、その他北京政府が青海のために動員した者たちが、その低酸素、氷点下という厳しい状況の中で、いかに勇敢に仕事を成し遂げたかを中心にレポートしなければならない」と言い渡されたという。

このような、あからさまな、自分たちの悲劇を利用しようとする態度に、チベット人被災者たちは当然、不満、怒りを感じている。

ここにきて、僧侶たちを追い出し始めたことでこの不満、怒りはますます強まっているというのが現地からの報告だ。

「すべては党の権威と求心力のため」にある全体主義国家において、自然災害という人の悲劇が利用されたとて、それは全く驚くにあたらないというわけだ。

党は人ではない、実体のないお化けのようなものだ。

中国地震救援隊がチベッタン・マスティフを救助?する現場しつこいが、左の写真はチベタン・マスチフが救助される所を撮った証拠写真の続きだ。
続きと言うより、この前の車に収容するシーンに入る前のシーンだ。

何だか、これを見ていて、連想から、つい思い出したことがある。

中国がチベット侵略を開始した当初、非常におとなしく振舞い、有力者にはプレゼントを渡し、農作業を手伝い、子供に飴玉を配っていたということをだ。

純真で人を疑うことを(比較的)知らない、子犬のように扱われたというわけだ。
騙された、チベット人が悪いのか? 気が付いた時にはもう遅かった。

中国地震救援隊がチベッタン・マスティフを救助?する現場檻の中にはお母さんも捕まっていた。

当局が発表する犠牲者数に対しても不満が広がっている。
http://phayul.com/news/article.aspx?id=27163&article=Questions+Over+Quake+Toll+in+Tibet

ホンコンのメディアのインタビューに答えたアンエン・ダンパ・レンキン高僧は
「自分の僧院だけでも日曜日に3400人の遺体を火葬にふした。他の僧院にはまだ4~500体の遺体が収容されている」
「犠牲者の総数は8000~9000人であろう」と語った。

その他、幾つかのホンコンの新聞やテレビ局が、少なくとも8000人が死亡したと報道し、中には一万人とレポートするところもあると言う。

現地やこのダラムサラでは、この犠牲者数一万人という数字を信じている人が多い。

ダラムサラで現地との連絡を担当している元政治犯の友人の話によれば「被災地には自殺一歩手前の人が大勢いる」という。

最愛の家族を亡くしたり、身寄りをすべて失った人たちが、その苦しみに耐え難く、実際に自殺した人もいたという。

彼は「チベット人たちは一般には仏教の教えもあり、自殺するというのは本当に稀だが、この度を越した悲しみの中で死にたくなる人がいるのは当たり前かもしれない」
とコメントした。

RFAなどでは、この被災者たちの心の問題を取り上げ、著明なラマなどが具体的なアドバイスをするという時間も作られている。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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