チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2010年3月30日

ITSNアジア地区会議

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26.3.2010 Dharamsala ITSN Meeting一昨日、三日間行われた「ITSN(The International Tibet Support Network 国際チベット支援ネットワーク)アジア地区会議」が終わった。
参加した国は11カ国。
このうちアジアからは日本、台湾、香港、韓国、バングラデッシュ、インド、オーストリアの7各国。
その他ケニア、アメリカ、イギリス、フランスからオブザーバー資格の参加があった。総勢52人。

会議の報告と言っても、この会議、プレスも入れない内輪の作戦会議なので、全部明かすという訳にはいかないところもある。もっとも仲間内には内容を周知させないといけないという面もあって、難しい。
このブログにも最近光栄にも中国側からのアクセスも認められるようになった、ということでブログでは概要報告のみ。
チベットサポートでは僻地である日本への、中国からのネット攻撃は稀であろうが、中心地アメリカやイギリス、フランスのサポートグループへの攻撃は日常茶飯事と化しているようだ。
会議ではネット攻撃を回避する方法という講義も行なわれたほどだった。

アジア会議というとこのダラムサラに本部を置く亡命チベット人のNGOも参加することになる。
例えば政府外5団体として有名なチベット青年会議、チベット女性協会、SFT,9-10-3の会、NDPT(チベット国民民主党)の内、大会を控えるNDPT以外の4団体が参加していた。
地元ではあるしで彼らは競ってその存在感をアピールしていた。特に女性協会と9-10-3は会長自ら乗り込んでロビングに励んでいた。

日本からは5人も参加していた。この前の世界会議の時には牧野議員を入れた4人だったので、今回は最大人数の参加ということになる。
26.3.2010 Dharamsala ITSN Meeting25人とは、SFT Japanから代表のツェリン・ドルジェさんとジョン・ウッドさん、KIKUから三好さん、スーパー・サンガから林さん、それにルンタから私という面々。

英語の会議はもちろん苦手の私などはほんのオブザーバー程度だったが、嬉しかったことは、昨日RFAカム語放送でこの会議のレポートが流され、その中で「台湾、日本など11カ国が参加した」と報告されたことだ。
これを聞いたチベットの中の人は「日本人も助けようとしてくれてる」と思うことができるであろう、それだけでも参加した意味はあったわけだ、と喜んだわけだ。
もっとも、日本は今まで「チベット問題に貢献してきた」などとはお世辞にも言えないほどこの分野では後進国だ。期待に応える責任も同時に感じた。

日本ははっきり言って世界のチベット支援の輪にはまるで加わってないに等しい。
まずは言語の問題もあるであろう。日本の支援団体間の連絡が良くないという問題もあるであろう。
内部事情は別にして、最近はロンドンの若松えりさんがボランティアでITSNの重要なキャンペーンのお知らせなどは翻訳してくださっている。
今まで、私を含めだれも翻訳の労を引き受けなかったのだから、これは有難いことだと私は思う。

28.3.2010 ITSN meetingITSNは加盟支援団体の話合いの上に様々なキャンペーンを行なう。
例えば、政治囚解放キャンペーン、チベット第三極キャンペーン、各国首相へのレターキャンペーンなどだ。
その他、イベントやデモ、議員へのロビングに使うための参考資料を供給したりする。
キャンペーンの多くはオンライン上でサインするだけのものだ。
オンライン上で例えば6年の刑を受けたドゥンドゥップ・ワンチェンさんの解放を訴える手紙にサインするということはチベットサポーターならあたり前のことだ。最低限の義務ともいえる。
知ればサインする人も多いと思う。

ルンタは11年前にできた時から元政治犯を援助することと、チベットの人権状況を伝えることを活動の中心にしてきたので、政治犯解放運動にも10年前頃から関わって来た。そのころはアムネスティと連携することが多かったが、外の世界から手紙を送ることは意味のないことではない。ちゃんとそれなりの成果を上げて来たのだ。

だから、これからも色々なキャンペーンが行なわれると思うが、出来るだけお知らせするので、それを日本側でなるべく多くの人に伝わるようにしてほしいと思う。
実際にサインするかどうかは各団体や個人の自由だ。

26.3.2010 Dharamsala ITSN Meeting3前書きが長くなった。会議の話に入る。
初めに首相のサムドン・リンポチェが来られスピーチされた。
「今ではチベットには第四番目の帰依所がある。それは外国の支援団体だ」という法王の言葉を引用して支援団体を持ち上げた後、政府の現在の中国に対するスタンスなどについて説明された。
最後には「しかし、政府の政策に支援団体が従う必要は全くない。自由に討論してください」と政府は民間団体に枠をはめたりはしないことを強調された。
この辺は中国に隙を見せないためと、中国との違いをはっきりさせたかったのであろう。
団体の中に独立支持派も少なからずいることを知っての発言とも思えた。

実際討論やワークショップが始まると何と騒々しいこと、みんな言いたいことが沢山ある人が多いのでマイクは時に取り合いになるほど。熱いといえば熱い。
台湾と香港から一人ずつ女性が参加していたが、さすが対中国戦の最前線に位置するだけあって二人とも特に熱い。
香港からの女性は若く派手な服装で人目を引いていた。彼女は根っからの独立派のようで、相手が首相であろうと議長であろうと、誰であれ中道論者にはお構いなく反論するのであった。

27.3.2010 ITSN meeting ,HH Audience最初の日には其々の会の自己紹介とか、状況分析とかメディアトレーニングとかがあった。
夕方には議会にも行き、副議長のギャリ・ドルマ初め5人ほどの議員と短い懇談会が行なわれた。
夕食の後には、噂のドキュメンタリー「Sun behind the clouds」の上映会。
私は実はその時初めて見たのだが、良かったですね。早く日本語にしたいと思った。
題の「Sun behind the clouds」は、かつてラサのダプチ刑務所で尼僧たちが歌っていた獄中歌の一節から取ったものだと初めて知った。それを最後に、このブログでも紹介したことのあるリンジン・チュキさんが歌うのだ。
http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/2008-09.html#20080923

この上映会が終わったのは夜の11時。

二日目の午前中は主な4つのキャンペーン計画についての討論。
4つとは:
チベットにいるチベット人を最優先とする。
各国政府がチベット支援のために具体的行動を取るよう圧力をかける。
チベット政策に直接関わる中国政府指導者をターゲットとする。
選択された中国人に接触する。

27.3.2010 ITSN meeting men.で、この後全員ダライ・ラマ法王との謁見があるというので、急いでパレスに向かった。
法王との謁見は最初プログラムにはなかったが、ちょうど法王がダラムサラにいらっしゃるというので時間を割いて頂けたのであろう。
この謁見はいろんな意味でなかなか興味深かった。中にテンジン・ツンドゥといういつも赤鉢巻きをしている有名な独立論者がおり、彼が法王を刺激し、普通でない雰囲気の謁見となった。
長くなるので詳しくは何時かまた。

27.3.2010午後にはまず中国学が専門のネルー大学教授アルカ女史の講義。
専門家とし現状分析と将来の展望についてインドのスタンスを含めながら話された。

その後、先のコペンハーゲンで行なわれた環境会議cop15に「チベット第三極」のキャンペーンを掲げて参加した、チベット人団体の報告。中国の使節団に突撃接触しようとするも果たせなかったという話とか面白かった。
最後に、各国政府が中国の圧力に屈しつつある現状をいかに打開すべきか、政府にいかに働き掛けるべきかを中心に討論。

この日、夕食後に囚われの身であるドゥンドゥップ・ワンチェンの妻ラモ・ツォが招待され、みんなで夫の解放を訴える彼女の話を聞いた。その日はちょうどドゥンドゥップ・ワンチェンが逮捕されて二年目に当たっていた。
いつもだが、彼女は話始めると興奮し、止まらなくなる。涙をこらえながら話す彼女の姿に目を潤ませながら聞いている人が多かった。

三日目には「囚人解放キャンペーン」を中心に部会に分かれ議論が続いた。
ITSNはドゥンドゥップ・ワンチェン、テンジン・デレック・リンポチェに続きあと7名、計9名の政治囚の解放に焦点をあて、これからも彼らの解放キャンペーンを行なう。

Tsewan Dundup昼食後、今度は、二発の銃弾を受けそのまま治療も受けず、一年以上も山に逃げ隠れていたツェワン・ドゥンドゥップが証言者として呼ばれた。
彼の話は何度もブログで紹介したが、この日の彼の話はまた良かった。
その中で彼は、デモを知ってそれに加わりに行く時の様子を次のように描写していた。
「俺たちにとってはダライ・ラマとパンチェン・ラマは自分の命よりも大事な宝のような存在だ。同じように僧侶や尼僧も俺たちには大事な宝だ。その僧侶や尼僧がデモを始めたと聞いては駆け付けないわけには行かない。広い平原を叫び声が聞こえる方向へと、自ら走り、あるいはバイクや馬に乗って、みんなが全速力で向かっている様子はまるで、ご帰還されたダライ・ラマにでも会いに行くために急いでいるかのようだった」

ラモ・ツォとツェワン・ドゥンドゥップの二人には何れ世界ツアーをやってもらうことになるだろう。
現在二人ともパスポート(代わりになる証明書)の申請をしているが交付までにはまだ数カ月はかかる見通しだ。
パスポートができれば、日本にももちろん連れて行きます。

午後はまとめセッションがあって、終了。
連日連夜の英語の洪水から解放され私の頭はホットした。
でも、ま、いつもだかみんなの熱心さには感心する。
世界中の様々な人たちがチベットをサポートしている。
日本人も少しは世界と連帯してキャンペーン等に貢献したいものだ。

ITSNについて詳しく知りたい人は以下のホームページへ

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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