チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2010年1月20日
朝日新聞がドゥンドゥップ・ワンチェン氏の記事を掲載
2010.01.19 朝日新聞夕刊10面
チベットの同胞を訪ね歩き、2008年夏の北京五輪に対する「生の声」を映像に残したチベット人がいる。トンドゥップ・ワンチェンさん(35)。中国で国家政権転覆扇動罪に問われ、09年末、懲役6年の判決を受けた。日本の支援グループが抗議の声をあげている。
インドに亡命していたワンチェンさんが、同胞取材のためチベットへ戻ったのは、北京五輪前年の07年11月。ワンチェンさんは映像の中で、「本土のチベット人が五輪をどう考えているのか、記録しておく必要があると考えたのです」と動機を語っている。
5ヶ月かけて、100人以上を訪ねた。ラマ僧、遊牧民のおじいさん、子連れの若い女性・・・・・・。雪のちらつく草原や薄暗い家の中で、彼らはカメラに顔をさらして証言する。安全のために顔を見せる必要はないと説明しても、「顔を見せなければ話す意味がない」と答えたという。
「(五輪は)みんなが喜んで祝うべき平和と自由の祭典です。でも私はチベット人なので、自由でもなければ平和でもありません」
「中国は宗教の自由はあると言います。しかし自由など全くありません」
「もう疲れ果てました。一人で、あてもなくさまよい続けているかのようです」
撮影が終わって数日後の08年3月、ワンチェンさんは逮捕された。米政府系のラジオ自由アジアによると、判決は昨年12月28日に言い渡されたという。しかし、取材テープは逮捕前に国外へ出て、約25分間のドキュメンタリー映画「恐怖を乗り越えて」に編集された。
支援グループ「SFT日本」代表で名古屋市のツェリン・ドルジェさん(35)もチベット人。同い年のワンチェンさんの境遇をひとごとと思えない。「彼は命をかけてチベットに帰り、映像を通して勇気をくれた。私は自由の国にいる。彼を助けたい」と、署名活動などをしている。
映画は、英語タイトル「Leaving Fear Behind」を検索サイトGOOGLEの動画で検索すれば、英語字幕付きがネット上で見られる。「SFT日本」も日本語字幕付きを各地で上映している。問い合わせは同会(sftJapan2008@gmail.com)へ。
(記事は、かにたまさんの書き起こし)
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)