チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2009年11月29日

閉じゆくチベットの門 (朝日新聞社)

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珍しく朝日新聞の記事から:

asahi.com(朝日新聞社):閉じゆくチベットの門 ネパール 巨竜の影(6) – 月替わりルポ – 週刊アジア – 国際
http://www.asahi.com/international/weekly-asia/TKY200911210253.html

2009年11月28日

■辺境、物資と兵の波

 標高8千メートルを超すアンナプルナ、ダウラギリ両山系の間を縫う深い谷を北へ抜けると、木々もまばらな荒涼とした風景が広がってくる。空気は澄み切り、黒みがかった青空は宇宙を感じさせる。ネパール領ムスタンはヒマラヤ山脈の北、チベット高原の南端に位置する辺境の地である。

 ヒマラヤの南のふもとから北上する山岳道路はカグベニ村で途切れている。かつて王国の都だったロマンタンまで、ここからさらに3~4日歩かなければならない。

 静寂に包まれたこの一帯で、かつて戦争があった。1959年、チベット動乱で故郷を追われたチベット人が、ここを拠点に中国軍に対するゲリラ戦を展開した。72年、ニクソン米大統領(当時)の訪中後、米中央情報局(CIA)が支援を打ち切るまで戦いは続いた。

 30年余りの時を経て、中国側からムスタンに道路が通じた。2006年末のことだ。わずかな作物しか育たない村の生活は一変した。米、衣類、家電、ガソリン、建築資材。「トラックが毎日のように来て、何でも手に入るようになった」と村人は言う。南からロバや人の背に揺られて来た物に比べ格段に安かった。ゲリラの拠点はあっという間に中国経済圏となった。

 ところが08年、中国は国境を突然封鎖した。3月に起きたチベット騒乱と8月の北京五輪を控えた緊張の中で、中国物資を運ぶ車は姿を消し、ムスタンの物価は高騰した。

 貿易は国境で年2回ある交易会に限定された。農業の傍ら雑貨を売って生計を立てるタシさん(23)は交易会で目を疑った。標高4千メートルを超える荒野に、無数の中国兵と軍用車と兵舎が並んでいた。

 チベット仏教徒であるムスタンの住民は、中国側から逃れてくるチベット難民を同胞として助けてきた。99年末にインドへ亡命した活仏カルマパ17世もこのルートをたどった。寺院や家々には最高指導者ダライ・ラマ14世の写真が飾られている。

 タシさんは中国人から「ダライ・ラマの写真は飾らない方がいい」と忠告されたことがある。「中国との商売はありがたいが、何だか複雑だ」と話した。

■難民に強まる圧力

 国境を無数の治安要員で固めた中国は今年9月、ネパール政府に対しても、約1200キロの国境沿いに1万人の警備隊を配置するよう求めてきた。ネパールが同様の措置をとれば、難民は中国の目をかいくぐることができても、ネパール側に拘束されて現場で中国側に突き返される可能性が高まる。中国への送還は厳罰を意味する。

 9月末、首都カトマンズのチベット難民が集中する住宅街の一角を警官隊が包囲した。あちこちに検問所を設け、外へ出ようとする難民をしらみつぶしに尋問した。

 昨年、カトマンズの中国領事館前では、連日300人を超える難民が抗議デモを繰り返した。今年は10月1日の中国建国60周年を控え、再発を恐れる中国政府の要請にネパール当局が応じた。予防拘束された難民は100人近くに上る。デモは実施されたが、参加者は数十人程度と腰砕けに終わった。

 ある難民は「中国の圧力はすごい。デモや集会が当局に事前に察知されている。スパイがいるかもしれない」と危機感を募らせる。

 ネパールには約2万人のチベット難民が定住し、新たに中国から逃れてくる難民に「自由への入り口」を提供した。国境を越えさえすれば、国連難民高等弁務官事務所を経て、ダライ・ラマが住むインドへ向かう、というルートが確立していた。

 その門が、閉ざされようとしている。

 ネパール政府が中国へ傾斜する背景には、巨大な援助がある。チベット自治区ラサまで引かれた青蔵鉄道をネパール国境、さらにカトマンズ近郊へ延伸する計画が浮上している。中国物資を扱う物流拠点の建設、10億ドルの低利融資と、大型案件が目白押しだ。

 一方でチベット亡命政府と接触したネパールの国会議員に対し、香港へのビザ発給を拒むなど、中国は「アメとムチ」を徹底する。

 対中外交に詳しいネパールの元外交官はこう指摘した。「中国の微笑の裏には自国の利益がある。ネパール接近の目的はチベット問題で最大限の協力を引き出すことだ」(カグベニ〈ネパール〉=武石英史郎)

 〈ネパールと中印〉 ネパールは伝統的にインドと経済的、政治的関係が深かった。70年代以降、インドの内政干渉を嫌う国王が中国に接近した。08年の王制廃止後も、その傾向は続いている。ネパールの輸入全体に占める割合はインド55%、中国13%だが、中国チベット自治区ラサとカトマンズを結ぶ幹線道路があり、中国製品の輸入が増えている。

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このままではネパールはもちろんのこと、アナチャル・プラデッシュ州もパキスタンも台湾も北朝鮮、(韓国、日本)も中国にいづれは併合されることは間違いないと思うのです。
特に、このまま共産党独裁政権が続けばですが、、、

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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