チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2009年11月25日

法王のロシアグループ向けダラムサラ・ティーチング

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24.11.09 Dharamsala Tsukulakan昨日の午前と午後、今日の午前中法王はみっちり法話を行われました。
全くいつものようで、疲れたご様子もなく、過不足なく、淀みなく、すべてを説明されました。

今日の午後はロシアグループとの質疑応答が行われています。

ここで、ロシア仏教徒グループと呼ぶ人々は正確にはロシア語圏の人々でして、
もちろんモスクワ辺りから来られている人もいますが、主には外モンゴル、ブリアート、カルミックの人が多く、その他トゥバ、アルメニア、カザフスタン、ウズベキスタンからも来られています。
総勢750人とのこと。

これらの国や地域はかつて共産党政権のもとで仏教は程度の差はあれ弾圧され、衰えてしまっていた地域です。
法王はこれを「リバイバルさせるために教えを説くのだ」とおっしゃいました。

最初にロシア語の般若心経がロシア語グループ全員で読み上げられました。
法王は感慨深げにこれを聞いておられました。

これらの地域にはもちろんモンゴル帝国の時代に仏教が広まり、最初はサキャ派の影響が多かったものの、その後今に至るまでデブン僧院系のゲルク派の教えが主に伝わっています。
こんな事もあり、ジェ・ツォンカパのテキストが二つ選ばれたのです。

昨日の午前中はテキストはなく、言わば21世紀の仏教徒の在り方のような話をされました。
面白い話も多かったのですが、、、いつかまた。

午後はジェ・ツォンカパの「テンデル・トゥパ(縁起讃)」を解説されました。
ジェ・ツォンカパもナーガルジュナも法王も仏になぜ帰依し、なぜ讃えるのかといえば「縁起即空、空即縁起」を説かれたが故に、と答えるのです。
二時間以上みっちり空の話でした。

今日の午前中「ラムツォ・ナムスン(悟りへの三つの要点)」を一時間ほど講義され、引き続き明日のヤマーンタカの潅頂の準備に入られました。
最初「十三尊ヤマーンタカ(ヤブユム)」の潅頂と告知されていたのですが、昨日「一尊ヤマーンタカ」に変更されました。

ヤマーンタカは文殊菩薩の憤怒形ということで、この行を行なえば、まずは内外の修行上の障害を取り除き、次に空性理解を大いに促進させるために役立つと言われています。
ゲルク派が特に好むデイティーです。

みんな、赤いお守りをもらい、夢判断のためのクッシャ草を揺らしながら帰って行きました。
モンゴル系の人々は色白で丸顔、太り気味が多い。
民族衣装も似合ってて、クッシャ草を嬉しそうに立てて歩く姿は非常に愛らしいのでした。

ーーーーーーーーーーーーーー

25.11.09昨日のなんちゃって「リビュークラス」を終って、感じたことが一つあります。

復習クラスと言ってもここでは仏教の話と言えば、慈悲と空の話、今日は特に空の話が多かったので、乏しい理解を基に三時間以上も自分では熱心にできるだけ少しでも解ってもらおうと話ました。
中に一人浄土真宗の若いお坊さんがおられました。

そのお坊さん「ビベーカナンダがおっしゃっていましたが仏教もヒンズー教の一部なんですね」
私「そうね、ヒンズーの人たちはそう言いますね。でも仏教徒はそうは言いませんね。今日も法王がおっしゃっていたように哲学的教義が全く違いますしね」

お坊さん「我(アートマン)が凡(ブラフマン)と一体となる(凡我一如)ことが縁起なんじゃないかと考えるんですが」
私「????アートマンとかブラフマンを否定したのが仏教じゃないでしょうかね?
また縁起という言葉は仏教の概念でヒンズー教の実在論からは発想できないものじゃないですか?」

お坊さん「仏はアートマンや神を否定してないんじゃないですか?」
私「明らかに否定したのです。その実体論、永遠論を否定したのです」

お坊さん「実体?」
私「ええ、空は無自性とも言いますが、、、」

ここでお坊さんはその言葉「無自性」を書こうとして間違う。

と、と、と、つまりこのお坊さんは「実体」とか「自性」とかの言葉も聞いたことが無かったという風なのです。
実際このお坊さんは浄土真宗だったので、浄土真宗は「般若心経」も読まないそうだから。空のことなど考えたこともないらしかった。
「自分はヒンズー教に近いように思う」とおっしゃっていましたが、それは普通の人はみんな実体視しかないから、仏教徒でないことは確かでしょう。

チベット仏教も仏教ですから慈悲を中心にした方便の話をします、行の中心です。
ですが仏教を勉強するとなるとその中心は「空」なのです。

ゲルク派の教学システムでは数年間の基礎論理学、知覚論、認識論などを学んだあと5.6年間「般若学」を学びます。空論前期課程のようなものです。
その後本格的に「中観学」を数年学ぶ間に空観の微細な差まで学びつくします。

僧院に行かなくても法王のお話は常に半分は空の話です。

今日は法王「本当には帰依や出離のためにも空の理解がいる」とおっしゃいました。

だから、馬鹿な私でも人に何となく説明できるぐらいには空の事を知っている。
ここでは、仏を讃え帰依するのは仏が縁起・空を説かれたからだと教えられる。
私もそうだ。
(実体的)浄土を作ったりされたからではない(そんなもの(実体的浄土)はもちろんないが)。

教え(の質)が違いすぎる。

日本はインドから遠すぎたのだろうか?
日本に一体仏教が伝わったことがあるのだろうか!?
何て大げさなふざけたこともふと考えたりしました。
もちろん空を深く理解されてる学者の方々も大勢いらっしゃるし、
他の派の僧侶の人々では事情が違うのかもしれません。

そんな日本に一時帰国するため明日潅頂を受けた後、ダラムサラを発ちます。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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