チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2008年12月20日

野田雅也氏連載第六回分、その他。

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胡佳氏
<EUは「08憲章」に関わり逮捕された者に深い懸念を表明した>

http://phayul.com/news/article.aspx?id=23461&article=EU+expresses+deep+concern+over+China’s+Charter+’08+arrests

EUは12月16日声明を発表し、劉暁波氏を含む最近中国政府により拘束された人権活動家に対する「深い懸念」を表した。

議長国フランスはEU27カ国を代表し中国政府に対し「劉暁波氏の安否及び拘束の理由」を速やかに明らかにするよう要求した。

劉暁波氏が拘束される以前12月11日、少なくとも二人の活動家が貴州省で拘束されている。

Chen Xi 氏と Shen Youlian氏は貴州省の省都、貴陽にて11日人権に関するシンポジュームを開いていたが、その場から二人は警察により連れ去られた。
これに関わっていた他の二人も「行方不明}だという。
四人とも今回の<08憲章>に署名している。

EUはまた「胡佳氏をはじめ他の逮捕者の基本的権利が尊重されなければならないこと、および如何なる状況においても言論自由の原則が守られなければならない」と明記している。

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次は野田雅也氏連載第6回、最終章です。

信濃毎日新聞 文化面 08年12月12日掲載
951c0dbe.jpgチベットの弾圧の犠牲になった人たちのために追悼の祈りを捧げる家族=2008年3月20日 インド・ダラムサラ 撮影:野田雅也

<チベット 人々の祈り> (野田雅也)

第6回 「真実とは何か」問う闘い

一九五九年三月十日。それは、チベットの人々の心に深く刻まれた日だ。

一九五〇年の侵攻以来九年に及ぶ中国の政治・軍事圧力に対し、この日、ラサの民衆が一斉に蜂起した。しかし、ラサを包囲した人民解放軍はこれを圧倒的な武力で押さえ込み、中国がチベット全土を完全支配するに至る。インド・ダラムサラにあるチベット亡命政府は「ダライ・ラマ十四世をはじめ八万人以上が亡命を余儀なくされ、八万七千人が殺害された」と、当時を記録している。

それから四十九年。北京五輪を前にした今年三月十日、ダラムサラからラサに向けて、難民たちの帰還大行進が始まった。それに呼応して、ラサでも僧侶たちが平和行進を起こした。中国の武装警察によって行進が阻止され、僧侶たちが次々と拘束されると、抗議のデモがチベット全土に波及した。ラサでは十四日、怒ったチベット人たちが警察署や漢民族の経営する商店を襲撃し、衝突が一気に激化する。中国は軍隊を導入して徹底的な弾圧を始め、銃撃によって多くの市民が犠牲になった。

三月末、インドの首都ニューデリーで、チベット難民たちによる大規模な抗議デモが起きた。インド生まれの難民二世、ロブサン・シャスティ(27)は、その群集の先頭に立ち、「チベットに自由を」と声を張り上げた。「叫ばなければ、怒りと悲しみで胸が裂けてしまう。中国はなぜ、チベットの国を、宗教や文化を、そして仲間の命を奪うのか。これ以上、私たちの何を奪い取るのか」。チベットで射殺された犠牲者たちの写真を手に、彼は唇を震わせた。

ロブサンの両親は、一九八一年にチベットからインドへ逃れた。彼を妊娠していた母親は、ヒマラヤを越える逃避行の疲労から、出産直後に衰弱死した。やがて父親も病死し、ロブサンは九歳で孤児になった。海外から支援を受けて運営される寄宿舎で育った彼は、奨学金を得て大学まで進んだが、〝難民〟という境遇が壁として立ちはだかる。インド国籍がないため、正規雇用の仕事に就くことができず、指定された難民居住区以外に住むこともできない。難民キャンプの小さな食堂で皿洗いとして働き、生活をつないでいる。

「ここには思想、言論の自由も、宗教の自由もある。けれども、難民であるがゆえに社会的権利はない」とロブサンは言う。中国の圧政下で生きる仲間たちを思えば、「耐えるほかないのはわかっている」。けれども、国とは何か、自分は何者なのか、果てしない苦悩が彼を苛む。「チベットの草原はどんな匂いがするのか。空はどれほど蒼いのか。想えば想うほど、故国が恋しい」

ニューデリーの抗議デモに参加した人たちは、杖をついた年配の人から、まだ幼い難民四世の子どもたちまで、世代を超えて「チベットに自由を」と声をあげた。その言葉には、帰郷の夢叶わぬ難民たちの、そして圧政にあえぐチベットの人々の、痛切な思いが込められている。「これは真実とは何かを問いかける闘いなのです。世界の人々はチベットのことを知ってもなお、心の眼を閉ざすのでしょうか」とロブサンは言った。

抗議デモは三月以降、日本を含め世界各地へと連鎖した。それは、半世紀に及ぶチベットの受難の歴史のなかで、人々の祈りの声がようやく世界に届いた瞬間だったようにも私には思える。

チベットは今、大規模な経済開発とそれに伴う漢民族の流入によって〝中国化〟が急激に進んでいる。そして、伝統的な人々の暮らしやそれに根ざした文化も、信教も、この地から消し去られようとしている。自由を、と願うチベットの人々に、残された時間は少ない。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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