チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2008年10月2日

教え三日目

Pocket

dbea34fd.JPG今日も9時半より法王の講義が行われた。
朝始まる前にいつも台湾グループが中国語の般若心経を唱える。
台湾グループは非常に行儀が良く、静かに座っている、お経もみんな声を合わせてよく響く、中国語の般若心経は明るい印象を受ける。

法王は「中国は千年以上もの間仏教の国だった。祖先の父母の宗教を辿れば仏教に行き当たる。愛や慈悲を説く仏教を大事にすることは大切なことだ。父母の宗教を守ることは大事だ。これは西洋の人にも当てはまる。仏教に無理に改宗することは勧めない。納得した、いいと思うことだけ実践すればよいことだ」と言われた。

昨日の午後の最後の方でカマラシーラ(蓮華戒740~794頃)の「修習次第・中編」に入られた。
ナーガルジュナのテキストが終わったわけではないのだが、法王の講義では複数のテキストが有機的にスイッチされながら進むことがよくあるのだ。
またこのスイッチが素早いので、とろいとこのとき置いて行かれる恐れがある。
今回は時間が少なく、その上同時通訳でないので、法王はテキストを飛ばし飛ばし進まれる。故にもっと追いにくい。
もっとも内容的には要約っぽく要点だけを説明されるので楽な話が多い。

カマラシーラのこのテキストは法王のお気に入りのテキストの一つだ。
おそらく10~20回は講義されていると思う。
非常に解り易く順序立てて、愛、慈悲、平等心、菩提心、六波羅蜜(その中の特に止、観)、最後に止観双運という具合に一切智者への道が説かれている。
今回はマリアさんの試訳が配られているが、確か日本語訳は他に出ているはずなので、ぜひお読みください。

蛇足を一つ。今回のテキストであるナーガルジュナ(竜樹)の「菩提心釈論」については少々説明がいると思われます。
著者は確かにナーガルジュナ(竜樹)なのですが、このナーガルジュナは「中論」を著したAD150~250年のナーガルジュナ(龍樹)ではないのです。
(竜樹と龍樹に書き分けているのは、便宜上私がやってるだけです)
密教のナーガルジュナ(竜樹)はおそらく7~8C頃の人です。
もっともここチベットでは「顕教の空と行を説いたナーガルジュナは600年ほどの寿命があって密教の空と行も説いた」と固く信じられているのです。
ですから、これは蛇足です。
ですが、一般の龍樹全集の中にはこのお経を見つけることはできません。

蛇足ついでに、カマラシーラは師のシャーンタラクシタと同じく、唯識思想を中観思想への導入部として認める、瑜伽行中観派に属する。

——

以下、幾つか法王のお話とテキストを紹介しよう。

中国人や日本人はよくアミタバ、アミタバ(ナムアミダブツ)と唱えるが、仏の悟りとは何か?如来とは何か?をよく知った後にアミタバ、アミタバと唱えるなら利益もあるだろう。知らないで唱えるのは意味がない。
阿弥陀如来はどこにいらっしゃるのか?と問うと、何だか上の方を指して浄土にいらっしゃると答える人が多い。
アミタバは内に現成すべきものであり、その自性心に至る道をここで説いているのだ。

嘗て、ティソンデツェン王の御前でインドから来たシャーンタラクシタと中国から来たハシャンが論争した。
論争点は簡単に言えば漸悟か頓悟か、分析を通して空の瞑想に至るのか?それとも直観的三昧により至るのか?であった。
結果シャーンタラクシタが勝ち、それ以後インド系のナーランダの仏教がチベットに伝えられることとなった。

「仏教の勉強方法として何かアドバイスを」の質問には、
ジェ・ツォンカパの「ラムリン」を基本とし、シャンティデェーバ(寂天)の「入菩提行論」とダルマキルティ、チャンドラキルティを学ぶべきだ。
観については特にナーガルジュナの「中論」を26章、24章、18章の順に読むことを勧めている。12因縁の考察が26章にあり、24章には自我の考察がある。

私は真のマルキストだ。偽善的マルキストではない。
貧しい人々を救おうというコミニストはいいが、今の共産党はキャピタリスト・コミニストという可笑しな存在となっている。

私の行の中心もこの菩提心と空の智慧だ。
私のようになりたければ、この二つに努めることだね、、、ヒヒヒ。

「菩提心釈論」より

第85章
慈悲という安定した根を持つものは
菩提心の芽から生じた
利他の唯一の結果であるさとりに
勝利者の息子たちは瞑想した

第86章
瞑想によって安定を得たものは
他者の苦に心を痛め
禅定の幸せを捨てて
無間地獄にさえ飛び込むだろう

第87章
これは驚くべきことであり、称賛に値する
これは最も勝れた聖者のおこないである
彼らが自分の体や財産を与えることなど
驚くべきことではない

第88章
すべての現象が空であることを知り
行いと結果に適用することは
驚くべきものの中の驚くべきものであり
卓越したものの中の卓越したものである

第89章
有情を守ろうという意思を持つ者たちは
輪廻の泥から生まれても
その欠点に汚されていない
蓮華の花びらのようである

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

ちべろぐ

Archives

  • 2018年3月 (3)
  • 2017年12月 (2)
  • 2017年11月 (1)
  • 2017年7月 (2)
  • 2017年5月 (4)
  • 2017年4月 (1)
  • 2017年3月 (1)
  • 2016年12月 (2)
  • 2016年7月 (1)
  • 2016年6月 (1)
  • 2016年5月 (9)
  • 2016年3月 (1)
  • 2015年11月 (1)
  • 2015年10月 (2)
  • 2015年9月 (4)
  • 2015年8月 (2)
  • 2015年7月 (14)
  • 2015年6月 (2)
  • 2015年5月 (4)
  • 2015年4月 (5)
  • 2015年3月 (5)
  • 2015年2月 (2)
  • 2015年1月 (2)
  • 2014年12月 (12)
  • 2014年11月 (5)
  • 2014年10月 (10)
  • 2014年9月 (10)
  • 2014年8月 (3)
  • 2014年7月 (9)
  • 2014年6月 (11)
  • 2014年5月 (7)
  • 2014年4月 (21)
  • 2014年3月 (21)
  • 2014年2月 (18)
  • 2014年1月 (18)
  • 2013年12月 (20)
  • 2013年11月 (18)
  • 2013年10月 (26)
  • 2013年9月 (20)
  • 2013年8月 (17)
  • 2013年7月 (29)
  • 2013年6月 (29)
  • 2013年5月 (29)
  • 2013年4月 (29)
  • 2013年3月 (33)
  • 2013年2月 (30)
  • 2013年1月 (28)
  • 2012年12月 (37)
  • 2012年11月 (48)
  • 2012年10月 (32)
  • 2012年9月 (30)
  • 2012年8月 (38)
  • 2012年7月 (26)
  • 2012年6月 (27)
  • 2012年5月 (18)
  • 2012年4月 (28)
  • 2012年3月 (40)
  • 2012年2月 (35)
  • 2012年1月 (34)
  • 2011年12月 (24)
  • 2011年11月 (34)
  • 2011年10月 (32)
  • 2011年9月 (30)
  • 2011年8月 (31)
  • 2011年7月 (22)
  • 2011年6月 (28)
  • 2011年5月 (30)
  • 2011年4月 (27)
  • 2011年3月 (31)
  • 2011年2月 (29)
  • 2011年1月 (27)
  • 2010年12月 (26)
  • 2010年11月 (22)
  • 2010年10月 (37)
  • 2010年9月 (21)
  • 2010年8月 (23)
  • 2010年7月 (27)
  • 2010年6月 (24)
  • 2010年5月 (44)
  • 2010年4月 (34)
  • 2010年3月 (25)
  • 2010年2月 (5)
  • 2010年1月 (20)
  • 2009年12月 (25)
  • 2009年11月 (23)
  • 2009年10月 (35)
  • 2009年9月 (32)
  • 2009年8月 (26)
  • 2009年7月 (26)
  • 2009年6月 (19)
  • 2009年5月 (54)
  • 2009年4月 (52)
  • 2009年3月 (42)
  • 2009年2月 (14)
  • 2009年1月 (26)
  • 2008年12月 (33)
  • 2008年11月 (31)
  • 2008年10月 (25)
  • 2008年9月 (24)
  • 2008年8月 (24)
  • 2008年7月 (36)
  • 2008年6月 (59)
  • 2008年5月 (77)
  • 2008年4月 (59)
  • 2008年3月 (12)